80 / 167
総失
「どうして、あなたがここにいるのですか?」
頭の上から声をかけられて、ビクッと肩を震わせて振り返ると、そこにはフェルメが立っていた。
「お、お久しぶりです。フェルメ様」
深々と頭を下げたが、フェルメは、「この者がなぜここにいる?」と隣にいた兵士に声をかけた。
「シャルール様が連れ帰った客人にございます」
兵士はさっと頭を下げてフェルメに伝えた。
「客人だと? この者は奴隷であろう、こんな者と一緒に扱われるなど、不快です」
フェルメは奴隷嫌いを隠そうともせずに、僕に言葉を浴びせかけた。
「申し訳あり……」
「シャルール様も何故このような者の肩を持つのか。奴隷など解放せずとも、スオーロに収容してしまえばよいものを……」
フェルメは長い袖で口元を覆った。
そのあからさまな嫌がりように、心が痛んだ。
水の宮殿でも、森の杜人達は僕を忌み嫌った。宮殿にさえも入れてもらえないほどに。
「フェルメ様。ここはエクスプリジオンです。ブルーメンブラッドのことは残念ですが、言葉をお慎みください」
すぐ横の兵士はそう言うと、僕を自分の後ろに隠すようにして前に出た。
「もう、何年も前のことです。今更ブルーメンブラッドの再興など、考えてもいません」
ブルーメンブラッドの再興? フェルメは龍神の杜人を探していたんじゃないんだろうか。
その杜人が見つかれば、『水』の問題が解決されて、この戦争も収めることが出来るんじゃなかったのだろうか。
今すぐにでも龍神の杜人が見つかれば、スオーロとの戦いも回避できるんじゃないだろうか?
杜人を探しているはずのフェルメはどうしてここにいるのだろうか。
「フェルメ様。杜人は、杜人は見つかったのですか?」
兵士の後ろからおずおずと声をかけた。
フェルメは、「あなたには関係ない」と突っぱねた。
「フェルメ様。お時間がありませんので……」
フェルメの連れが後ろから声をかけて、フェルメを促した。
僕はほっとして振り返ったが、「これはっ」とフェルメが叫んで僕の腰に結び付けてあったヴァレンから預かった小刀を掴んだ。
「これをなぜ、持っているんですか? どこで手に入れた?」
フェルメは凄い形相で迫ってきた。
ともだちにシェアしよう!