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総失

「こ、これは人から預かったものです」 「預かった? 誰にですか?」 「ヴァレンさんからこの戦いが終わるまでの再会の約束に……」  小刀を握ったままのフェルメは険しい表情のままだ。 「ヴァレンとは、元国王兵団の医師だと聞いた。先日会ったが、その短剣のことは聞いてない」 「僕たちが行く前にフェルメ様が立ち寄られたことは聞きました。アウルムまで一緒に行き、あそこで負傷者の治療をするために残りました。それで、僕に『戦いが終わったら返してくれ』って、預けてくれたんです」  僕が説明するが、フェルメはまじまじと小刀の柄に見入っている。 「ヴァレンは、これをどこで手に入れたか話していたか?」 「いいえ」 「これを、私に譲ってくれないか?」  フェルメは掌を返したように、これまでの表情とは違う優しい顔つきで言った。 「これはお預かりしている物なので、譲ることはできません」  小刀をフェルメから隠すようにして身を翻したが、「奴隷ごときが」と肩を掴まれて突き飛ばされた。 「どうせ、どこかで盗んできたのであろう。その短剣はしかるべきお方が持ってこその代物……我がブルーメン……」  フェルメは目を見開いて叫ぶように言葉を告げるが、横にいた連れに、口元を押えられて制された。  僕が突き飛ばされて壁に音を立ててぶつかったことで、広間に残っていた人々が注目した。  フェルメが変貌するほどの何かがこの短剣にはあるだろうことは理解できた。 「ぼ、僕はヴァレンさんから預かった。盗んでなんていません」  注目されることに居心地が悪く、側にいた兵士を急かすようにして広間を後にした。 「大丈夫ですか?」  横を早足で歩きながら兵士に声をかけられた。 「大丈夫です。お忙しいのに、時間を取らせてしまってすいません」  謝ると、「大丈夫ならよかったです」と頷かれた。  この短剣のことは気になるが、フェルメに聞いたところで教えてはくれないだろう。  しかるべきお方、ブルーメンブラッド。大事な何かがこの短剣にはあるのかもしれないが、僕はそれを知る術を持っていない。  戦いが終わって、ヴァレンと再会できたら聞けるだろう。  ひんやりと冷たい柄を握り締めて、足早に進む兵の後を付いていった。  広い城内を兵たちと共に進む。シャルールは大臣や要人と戦略を話し合うと言っていた。

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