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総失

兵達はすぐにでも出立できるようにその準備に大わらわだ。 「ディディエ様は部屋で待機と聞いていますが」  兵士にシャルールの部屋まで連れて行かれて、なぜここに連れて来られたのかを聞くと、シャルールからの命令だと言った。 「僕も一緒に行きます」 「しかし、シャルール様から言いつかっていますので……」  言い募ると連れて来た兵士は困った顔をした。 「シャルール様はここに立ち寄りますか?」  出立前にはここに戻ってくるだろうか。それまでに準備をして、すぐについていけるようにしておけばいい。  シャルールが置いていくと言っても、僕はついて行く。  仲間の安否も心配だ。  それに、ここで安穏と不安になって待つよりも、足手まといになってもついていきたい。 「では後ほど」  兵士はそう言って頭を下げると部屋を出て行った。  ひとり部屋に取り残されて、部屋を見渡した。  毛足の長いフカフカの絨毯、赤い縁が印象的な家具。  壁紙は白く、一つの染みも無い。  スオーロで雇い主から与えられていた部屋は、奴隷が何人も一緒に生活していて、木や梁がむき出しで、雨が降れば雨漏りがして、元の色が分からないほどに変色していた。  こんなに静かな部屋にひとりでいることも殆ど無かった。  白いドレープの入った麻のシャツはとても涼しく、肌触りもとてもいい。 『俺の物になれ』と傲慢に言い放たれたのは先ほどのことだ。  何を言われているのかも理解できずに言い返したが、『お前を俺の側に置き、愛でたいと言っているんだ』と怒るように言われてようやく理解したのだ。  求婚されていると……。 「俺が求める物は失う物が多い。この力のせいで……」  握り締めた拳を開いたシャルールの手から炎が上がった。  驚いて後ろに下がる。 「全てを焼き尽くす業火。俺は……この力で実の母を焼き殺し、仲間の兵をも殺した」  多くを失ってきた。そう前に話していた。この能力のせいで失う物が多すぎるとも。 「この手で、愛する物を焼くかもしれない」  シャルールは床に膝をついたままだ。後ろに下がった僕と少しだけ距離が開いている。 「だから、俺は人を愛さない。好きにならない」  見つめるシャルールの赤い瞳は暗い影を落としている。

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