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総失
自分が触れたことの無い感情だから。
「お前はただ……俺の側にいればいい」
シャルールが再び僕の片手を握った。
「答えを急ぐ必要はない。ただ、俺がお前を求めていることを知っていればいい」
シャルールは軽く手の甲に口づけると立ち上がって、「兵が迎えにくるまでここで待っていろ」と言って出て行ってしまった。
答えって……それは僕が、シャルールの恋人……妃にでもなるってことだろうか。
婚姻は性別を問わない。性に対して規制や偏見は無いから、抵抗も無いし、周りも何も……言わないけど、シャルールとでは違う。
僕は奴隷だ。
奴隷区で生まれ育ち、そこから逃げ出して保護されている身分だ。
それに対してシャルールは火の杜人のうえに、国の要人。次期国王で、これから戴冠式だ。そんな人からの求婚なんて受けられるはずが無い。
エクスプリジオンがどうかは分らないけれど、世襲制なら子どもが必要だ。
スオーロは世襲制だ。国王は能力者でもない。
シャルールは他の火の杜人よりもはるかに能力が高い。その能力の強さで次期国王なのか、王族なのか僕には分からないけど、その能力を受け継ぐには女性と結婚するしかない。
あれほどに優れた能力を次世代に繋げていくには、僕とシャルールが結ばれるわけにはいかないのだ。
僕が働く云々以前に、イグニスには反対されるだろう。
僕は奴隷だ。
ひとり残された部屋を見渡し、先ほど行われた戴冠式を思い出す。
シャルールは国王になったのだ。
これからスオーロとの戦いに行く、勝利すれば4国をまとめて一つの大国とし、その初代国王となるだろう。もし、負ければ罪人として囚われる。
どちらにせよ、僕は、シャルールに応えることはできない。
スオーロを逃げ出したときにはこんな大戦になるとは思ってもみなかった。仲間と一緒にエクスプリジオンまで逃げて、そこで亡命して細々とでも生きていければいいと思っていたのに。
その仲間は囚われてスオーロへと連れ戻されてしまった。
今、どんな仕打ちを受けているのかと思うと胸が苦しい。
早く、早く助け出してあげたい。国に残してきた仲間もいる。同じ主に仕えていた奴隷もいる。
この大戦でエクスプリジオンが勝利してさえくれれば、奴隷は解放される。
奴隷の大半が元ブルーメンブラッドの国民だ。その中にはもしかしたら龍神の杜人もいるかもしれない。
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