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総失
「ディディエ様」
先にいた兵士が僕に気が付いて振り返った。
「姿が、見えたので……」
先ほどの兵士に視線を送る。
木戸を開いてたどり着いたところは、城の頂上に近い塔の上だった。数人でいっぱいになるそこから、双眼鏡を使って他の兵は僕が先ほど伝えた森の光を探していた。
「ディディエ様、先ほどの光はこの方向でしたよね?」
兵士に確認されて、「はい」と返事をした。双眼鏡で見ている先は確かに、先ほどの光の方角だ。
「見つかったか?」
2人の双眼鏡を持った兵士が森の中を探っている。後ろから肉眼で探している兵士もいる。
兵士たちの間から森を見つめた。
「光ったっ」
「光ったぞ」
肉眼で見ている兵士と声が重なった。同じところを見ていたのだろう。双眼鏡を持った兵士が素早くそちらに向いて、探した。
「あれは……至急報告だ。スオーロの兵だっ」
双眼鏡を持った兵士が告げるとすぐに、後ろにいた兵士が階段を駆け下りて行った。
スオーロの兵?
どうしてこんなところに。
アウルムに攻めているはずなのに。
これからシャルールと共に残りの兵も出立しようとしているのに……。
「森の中に潜んでいたのか」
「数はどれほどだ?」
「そう多くは無い」
光ったのは兵士の持っている何かだろう。早朝には見えなかったものが、日の光の射す方角が変わって反射したのかもしれない。
「時間が経てば見失うぞ」
そう言いながら、双眼鏡を持った兵士が森の中に潜む敵兵を探っている。
「森の木々に邪魔されて、正確な数は把握できない」
「それほど多くは無いということか?」
「そうだろう。ここに残っている兵の数の方が多いだろう」
「すぐに、シャルール様に報告を」
先ほど報告に向かった兵を追いかけるようにして、もうひとり報告へと向かった。
「ディディエ様。すぐに部屋にお戻りください」
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