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総失
だけど、叫び続けた。
「何もしないなんてできない。僕は足でまとかもしれないけど、シャルール様を助けたいっ。少しでも、側に行きたい」
鎧も兜も身に着けてはいない。
麻の薄い着物しか着ていない。
腕を掴んでいる兵士の腕を振りほどくと、馬場に向かった。
幾人もの兵が出立に追いつこうと縦横無尽に走り回っていて、何度もぶつかった。
馬場にたどり着いて馬を探す。
乗馬なんてできない。だけど……。
「スレアッ」
馬場の一番端にその姿を見つけた。
シャルールの愛馬。誰にも懐かず、気性の荒いスレアはシャルールしか乗せない。
シャルールに置いて行かれれば、馬場で待つしかない。
「お前もここに置いて行かれたんだね」
声をかけると甘えるようにその鼻先を僕の胸に擦り付けた。
アウルムからここに来るまで、シャルールと僕を乗せてきてくれたスレア。疲労していることは分かっている。
その疲労ではこれからの戦いに連れていくことができないことも。
だけど、この馬ならば、「僕を、シャルールのところまで連れて行って」叶うだろう。
スレアは返事をするように大きく嘶きを上げた。
鞍は付けたままだ。
戦い用の重い武装した鞍ではない。軽い乗馬用の皮の鞍が付けられている。
「行こう。スレア」
馬場の柵に結び付けてあった手綱を解くとその背中に跨った。スレアは大きく前足を上げた。
「うわぁっ」
「スレアッ。駄目だ。止まれ」
周りにいた兵士たちが僕とスレアを止めようとしたが、スレアのその動きにさっと身を引いた。
スレアはその巨体を震わせると、勢いよく馬場を飛び出した。そして、僕を乗せたまま柵を飛び越えると先を走る兵を追い越した。
僕は振り落とされないように手綱と鞍を必死に握りしめていた。
スレアはシャルールが行った方向を分かっているようで、うっそうと草木が生い茂る森の中を疾走しり続ける。
僕が部屋に送られてからそう時間は経っていないはずだ。シャルールが直後に出立していても、追いつけないことはないはず。
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