92 / 167

総失

 スオーロの敵襲の数は少ないだろうが、数人で先発したシャルールを襲うことなど容易だ。  それに、アウルムへの応戦と街を守るために二手に兵が別れたことを伝えなければならない。  シャルールが襲われるのが先か、追いつくのが先か。  少しでも早く、シャルールに追いつき、事態を知らせなければならない。  それに、シャルールが持って行った水も危険かもしれないのだ。  後ろから数人の騎馬が追いかけてくるが、スレアの速さに追いつくことは叶わない。木々の間を縫うようにして走るスレアに必死にしがみついていることしかできなかった。  広い森の中。敵の兵も潜んでいる。そんなところで無事にシャルールを見つけ出すことはできるだろうか。  スレアは何の迷いもないように森の中を進んでいく。木の枝が身体に叩きつけられ、痛みはしたが必死にしがみ付いて、シャルールの無事を祈るしかなかった。  焦げ臭い木の焼ける匂いと肉の焼ける匂い。吐き気が込み上げるほどの生臭い匂いが辺りを包んでいた。  スレアはその匂いに足を止め、それ以上は進もうとしなかった。  それに、焼けた地面はまだ熱く、スレアの足では進むことは叶わなかった。 「スレア。ありがとう。きっとこの先にシャルール様がいる」  水が少なく、枯れて倒れた木々は乾燥して瞬く間に火は燃え広がったようだ。シャルールがその能力で火を放ったのか、スオーロの兵が放ったのか分からないが、その炎は空高く燃え上がり、さらに燃え広がっている。  足元には焼死した兵が倒れていた。  その鎧にはエクスプリジオンの紋章があった。そして、焼けてはいたが、敵兵から切られたのだろう、大きな切り傷が付いていた。  ここでスオーロの兵に襲われたんだ。  周りを見渡しても、まだ燻っている焼野原続いているだけで、人の気配はしない。  スレアを撫でて、手綱を解いて鞍をおろした。 「シャルール様のところへは僕が行ってくる。スレアはエクスプリジオンに戻って。ここまで連れてきてくれてありがとう」  鞍を焼け残っていた茂みに隠した。  焼けた森の先にはまだ轟々と燃える炎が見え、熱も感じる。その先にはアウルム国の城が建っている山がかすかに見えた。  炎を除けるしか道はない。

ともだちにシェアしよう!