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総失
「そこにいるのは誰だっ」
木々の間から声が聞こえた。燃え残った森の奥の方からだ。
とっさに身を隠すが、数人の男たちにすぐに見つかってしまった。
「ここで何をしている」
男たちは隠れた僕を怪しんではいるが、危害をくけるつもりはないようだ。
後ろを見れば、男たちの家族なのか女性や子どもの姿もあった。
「僕はアウルムに向かっています。急ぎ、伝えるべきことがあって……」
「アウルムにだって?」
驚いて目を見開く。
「俺たちは今、アウルムからエクスプリジオンに向かっているところだ。あんなところに行ったって、死にに行くようなものだぞ」
「命が惜しければ逃げろ」
「どうして? あそこにはエクスプリジオンの兵士たちがたくさん……」
「ああ。だがもう敵も味方も入り乱れて……逃げ遅れた住民も焼け出されているんだ」
「焼けて?」
「ああ。スオーロの打ち込んだ大砲の火薬が引火して、街は火の海だ」
「この森を焼いたのもきっとスオーロの連中だよ」
「エクスプリジオンは無事なのか?」
「ええ。でも、スオーロの兵が森に潜んでいて、エクスプリジオンの兵が討伐に出ました。アウルムにも兵士は向かいましたけど、会いませんでしたか?」
この森を通ってきたなら、シャルールや応戦に向かう兵団に会ったのではないだろうか。
「赤い兵士を先頭にした数人の兵士ならすれ違ったぞ」
「半時ほど前だが、馬を飛ばしていたから、もうだいぶん進んだだろう」
シャルールだ。
「どこでっ、どこですれ違ったんですか?」
「この先だ。森の先の岸壁のすぐ下を通り抜けて行った」
見上げるが木々に邪魔されて、その岸壁を見つけることはできない。
「ここをまっすぐ進めば岩山の裾にたどり着く。そこをアウルムに向かっていたんだ」
「木々に邪魔されない分早く進むことはできるが、敵兵からは丸見えだ。歩いて行くなら、このまままっすぐアウルムに向かった方が安全だ」
「だけど、火の回りは早いからな」
燃え続ける炎は森を飲み込んでいく。
「雨が降れば……」
水さえあれば炎を抑えることも叶うだろうけど、ここにはその水がない。
見上げた空は昼が近いというのに、轟々と燃え上がる炎の煙で覆われていた。
「無事でな」
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