96 / 167

総失

 気持ちは焦るが、すぐ後ろを追いかけると気が付かれてしまう。  獣道から少し森に入った茂みの中を見失わないように追いかけた。  馬の蹄の音と草を切る音。 「見つけたぞっ」  先を走る兵の叫び声が聞こえて、顔を上げて先を見た。  馬に乗った兵士達がもつれ合うように戦っているのが見えた。 「シャルール……」  赤い髪が揺れるのがかすかに見えた。  森を焼く炎がその周りを囲い、シャルールのいるその先から更に他の敵兵が迫って来ているのが見えた。こちら側の敵兵もそこに飛び込もうとしている。  シャルールの他に数人の兵士しか味方は見えない。 「シャルール」  獣道に転がり出て、名前を読んでもそこに届くはずもなく、兵士の声と武器がぶつかり合う音、森を焼く怒轟でかき消されてしまう。  切れ切れになる息を堪えてそこに向かって走った。 「シャルール……」  僕がそこに行って手助けになるとは思えない。  だけど、止まることもできない。  かぶっていた筈の兜はなく、赤い髪が激しく揺れている。  剣を受けて、跳ね除ける。  馬が暴れて前足を跳ね上げる。  敵兵は次々とシャルールに向かっていく。  そのシャルールを守るように円陣を組んでいた兵が敵兵に切られて、血しぶきを上げて転がった。 「シャルール様っ」  シャルールを挟んだ向こう側の敵兵の後ろから、エクスプリジオンの甲冑をつけた兵士たちが現れた。突然のことに足を止めた。 「うをぉぉおっ」  叫び声とともに幾人もの兵士がシャルールの元に飛び込み、敵兵をなぎ倒した。  剣を構えてシャルールの前に立ちはだかるように敵兵から守った。  敵兵がすぐ足元に倒れこんできた。シャルールの視線がこちらに向いて、驚きに見開かれる。 「いいところで会ったね」  今度はすぐ後ろから声がした。  足音なんて聞こえなかった。周りに人なんていなかったはずだ。 「ディディエッ」

ともだちにシェアしよう!