98 / 167

総失

 剣のぶつかり合う音と地面を踏む音が響き、兵士の声も聞こえ、激しい息遣いも聞こえるが、僕はじっとシャルールを見つめていた。  赤い髪が剣がぶつかり合うたびに揺れ、眉間に寄った皺は深く、赤い瞳は敵を見据えたままだ。  剣を振り下ろし、赤い炎が時折その手から放たれるが、オオシは身軽で、ひらりと身をかわす。  細くて長いオオシの剣は片手で振れるほどの軽さで、シャルールに細かな切り傷を与えていく。シャルールの剣は重く、当たれば致命的な傷を与えることができるだろうが、オオロの身軽さにその一撃を与えることができない。 「うわぁ……」  背中からの激痛に声を上げた。  見つめていたシャルールが一瞬こっちを見た。  そして、その一瞬の隙に、シャルールの肩から血が吹きあがった。 「シャルールっ」  叫び、駆け寄ろうにも動くことができない。  背中からの激痛はすぐ横にいた獣がその太い前足で僕を踏みつけ、その爪を食い込ませたからだ。  ギリギリと踏みつける足の爪がさらに食い込む。 「うぁああっ……」  反対側の足が肩を抑えつけた。握っていた拳でその前足を掴むが、びくともしない。 「ディディエっ」  シャルールの叫び声とともに、辺りが赤く明るくなった。 「ぎゃぁあっ」 「うわぁっ」  兵士の叫ぶ声と共に背中の重さは消えて、ザザッザザザッと地面を擦る音がした。  起き上がると炎に焼けた獣がその炎を消そうと地面に身を擦り付けていた。  シャルールは切られた肩を抑えたまま、剣から手を放し赤い炎をいくつも放ち、兵を焼いていた。 「シャルールっシャルール止めてっ」  オオシは放たれる炎をその剣でかわし、後退している。  敵味方関係なく向けられる炎に兵士は身を焼かれてのたうち回る。 「シャルールっ」  背中の痛みに耐えて、シャルールへと駆け寄ろうとするが、「ディディエやめろ」と味方の兵士に捕まえられた。 「シャルールっ、シャルール」  その腕を振りほどこうともがきながら、何度もシャルールを呼ぶが、シャルールは大きく腕を振り上げると頭上に大きな炎を作り上げる。

ともだちにシェアしよう!