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王の帰還
「ディディエ」
肩をゆすられて顔を上げた。
敵兵から振り下ろされた剣を薙ぎ払ったのは、イグニスだった。馬からさっと飛び降りる。
「しっかりしなさい」
「で、でも、シャルールが……」
「シャルッ、目を開けなさい」
イグニスは真横にしゃがみ込むと、手を包む防具を素早く外し、シャルールの額に当てた。
「熱いんだ」
あれだけの炎を放出して能力の箍が外れてしまったのか、シャルールは大声で叫び、その場に倒れた。
周りは火の海で誰もその能力を止めることはできなかった。
「シャルッ、シャルールッ」
イグニスが呼びかけても返事をしない。ぐったりと意識を失ったままだ。
イグニスがその能力を使っても回復しない。
「水を……」
「水は駄目だよ」
シャルールの腰についている小さな水筒をイグニスが手に取ったが、それを制止した。
「エクスプリジオンの水には毒が入れられて、シャルールの水筒の水も、もしかしたら毒が入っているかもしれないんだ。僕は、それを知らせにここに来たんだけど……」
戦いは始まってしまった。
毒の混入を知らせるより先に、シャルールは倒れてしまった。
オオロにも炎を浴びせかけ、周りの制止も聞かず、シャルールは炎を放ち続け、森は焼けて行った。
僕を守ってくれた兵士も敵兵の凶弾に倒された。
小さく広がった森の一角の広場は大きく黒く焼き尽くされて、先に焼かれていた森と繋がった。
隠れる場所などほとんどがなくなり、熱さに馬は逃げだした。
兵士たちは逃げる場所もなく、戦い続けている。
イグニスは剣を払う。仲間の兵士が駆け寄って守ってくれるが、シャルールは一向に目を覚まさない。
抱きかかえたままのシャルールは血が沸騰しているかのように熱い。
「このままでは……」
「シャルール……」
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