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王の帰還

「雨さえ、降れば……」  イグニスが空を仰いだ。 「シャルールッ」  名前を呼んでぎゅっとその熱い身体を抱きしめる。  雨なんて降らない。  水もない。  国王が倒れ、敵も倒れてもなお、戦いは止まない。  誰か、どうか、この戦いを止めて。  シャルールの命を、この熱い身体を冷やして。 「あそこにいるのはオオシか?」  イグニスに聞かれて頷いた。 「戦いの意味を失ってもなお……」  イグニスの言葉に『時の運による』というオオシの言葉を思い出した。  時の運。戦の意味を全うしても、戦を止めるには時の運が必要ってことだろうか。  その運が今はないということだろうか。  シャルールが暴走してしまったのは、僕が襲われたから……。 「シャルール……シャルール起きて……この戦いを終わらせて」  か細い声でシャルールに呼びかける。 「どうか、どうかのこの戦いを……」  願い、乞い、縋ってもシャルールは目を開けない。 「ディディエ、このままでは我々も危ない」  イグニスが声を震わせた。 「シャルールはっ、シャルールを置いて行けっていうの?」  抱きしめている身体は熱い。だけど、鼓動は……聞こえない。呼吸もしていない。 「能力が切れただけじゃないの?」 「…………」 「イグニスッ」  イグニスが小さく首を横に振った。シャルールの剣を掴む。その剣に施された赤い宝石がいくつも粉々に砕け散っていた。 「能力の暴走を止めることなんて叶わなかった」  剣の宝石はシャルールの能力を制御する力を持っていた。能力をコントロールするものだとヴァレンは言っていたけど、石が制御できずに粉々になるほどの暴走。  イグニスは乗っていた馬の手綱を引き寄せるが、直後にズザッっという激しい音共に、馬が地面へと倒れた。イグニスが立ち上がり、その剣で襲ってきた敵兵に切りかかる。 「ディディエッ。早くここから離れて」 「どこにも逃げ場なんてないよ」

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