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王の帰還

「お前が龍神の杜人でブルーメンブラッドに帰っても、もう国は無い。4国を一つにまとめ、俺が統治する新国の一部になる。国民はみな等しく、奴隷も無い。お前は自由だ。杜人としての責務はあるだろうが……どうか、俺の側にいてほしい。この戦争が終わるまで、俺の側を離れるな」  赤い瞳がじっと僕を見つめている。 「僕は……」  奴隷も無くなり、国も無くなれば僕は自由だ。  シャルールが望むように、側に……求婚だとはっきりと言ったシャルールに応えることもできる。  シャルールが4国を統治して国民が等しく対等と認められれば、僕は自由だ。 「俺の望みを叶えてくれるのだろう?」  僕が、僕ができることならとあの時は簡単に口にすることができたけど、あの時はシャルールの立場を知らなかった。  あの時よりもシャルールの立場は上だ。国王なのだ。  簡単に答えを出すことなんてできない。 「ディディエ」  髪を撫でた手が後ろ頭を引き寄せた。  それは、熱く感じた。  煤で汚れて、焦げた匂いがした。  赤い髪が額に触れて、くすぐったいと感じるよりも、触れ合った唇が熱く感じた。  抑えていた手が離されて、寝台に落ちた。 「シャルール様?」 「少し寝る。イグニスやシャージュに任せるから少し一人にしてくれ」 「……はい」  返事をするとシャルールから離れた。  熱く触れた唇を指先で抑えた。  シャルールが望むことは、僕がただ側にいるってことではなくて、『求婚』で口づけをしたりする仲になりたいってことだ。  それは理解していたが、頭で理解することと実践は違う。  改めて自覚を促された気がする。 「ディディエっ」  名前を呼ばれて顔を上げる。 「ヴァレンさんっ」  駆け寄ると、「やっぱりそうか」と言って、僕の髪を撫でた。 「ヴァレンさんは分かっていたんですか?」 「ちょっと見せてみろ」

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