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王の帰還
「ブルーメンブラッドがスオーロに襲われた時、皇太子は妃と共に逃げました。その時唯一生き残っていた杜人は皇太子と国王だけです。国王は杜人を守るために、二人を逃がしました」
ヴァレンの祖父が看取ったのは皇太子だったのか。
「国に残った国王は二人を守るために自害されました」
「ど、どうして」
「水を守るためです。国が滅んでも、水を滅ぼすわけにはいきません。皇太子妃のお腹に子どもがいたことは確かな事実です。2人さえブルーメンブラッドから逃がすことができれば、水を守ることができる。龍神の杜人を捉えれば、スオーロは水さえも支配することができる。あの時に、エクスプリジオンからの庇護を受け、水の宮殿だけは守ることができました。水が、枯れないのは唯一の杜人である皇太子か、その子どもが生き延びていた証。ですから、我々はずっと探し続けていました」
フェルメはじっと僕を見つめた。
ずっと探し求められてきた。それは間違いのない真実。
「だけど、皇太子妃の子どもが杜人である保証はどこにも……」
「水が枯れなかったのが唯一の手掛かりです」
僕一人だけ。それはとても重い重責ではないのだろうか。
「もしも、僕が死んでいたら水は枯れてしまったんですか?」
「そうですね。あなたにはこれからたくさんの子孫を残す義務があります」
「で、でも、もうブルーメンブラッドは無くなっているし……」
「国は無くても、あなたは唯一の杜人で、水を枯らさないためには子孫が必要です」
力の入ったフェルメの言葉に次の言葉が出ないでいると、「それじゃあ、嫁をもらわなくちゃだな」とヴァレンが言った。
「じゃぁ……」
僕はシャルールからの求婚を受け入れるわけにはいかない。
龍神の杜人が僕一人で、それが遺伝でしか継承されないのなら、僕はシャルールの物にはなれない。
「そうなると、シャルのやつは振られるのか」
ヴァレンの言葉にハッと顔を上げた。
悪びれた素振りも見せずに、「まぁ、シャルじゃ子どもは作れないしなぁ」と続けて、フェメルは僕をじっと見た。
「まさか、そういった関係があるのですか? あなたは……奴隷だったからですか?」
フェルメは慌てて僕に詰め寄ったが、「ち、違いますっ」と否定した。
「どうかされましたか?」
イグニスがシャージュと共に戻ってきたが、三人で話していることが気になったようだ。
「い、イグニスさん。あの、シャルール様はしばらくお休みになりたいから一人にしてほしいって。イグニスさんとシャージュさんに任せるって」
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