115 / 167

王の帰還

「そうですか。承知しました」  イグニスは頷くと、「ヴァレン。医療の手が足りていません。至急仕事に戻りなさい」と言った。 「ちょっと話していただけだろう」  ヴァレンは唇を尖らせると急ぎ足で兵たちの方へ向かった。 「イグニス様、ちょっと確認をさせて頂きますが、シャルール殿下はこの者をどのように扱われておいでだったのでしょうか?」  イグニスは困惑顔をして僕を見ると、「大変お気に召しておいでです」と答えた。 「それはどうのような内容でしょうか?」 「内容?」  イグニスはますます怪訝な顔をした。 「先日お会いした時には客人だと言っておられましたが、どのようなお客人か説明願いたい」  フェルメの剣幕にイグニスは戸惑って、「スオーロからエクスプリジオンに亡命する途中で我々が保護したのです」と説明した。 「ですが、今、ヴァレン殿が、シャルール殿下とは子どもが作れないと言われましたが」  イグニスは目を見開いてヴァレンが向かった方向を見たが、すでにその姿は無かった。  大きくため息を吐くと、「そのような関係ではございません。確かにシャルール様はディディエを大変気にいられてはいます。自分の側仕えにと望むほどに。ですが、それは以前までの事。ディディエが龍神の杜人と分かった今、そのような軽口を叩ける立場にはありません」と告げた。  イグニスやほかの人たちは知らないのだ。僕に、シャルールが膝をついてまで求婚したことを。それなら、知らないままの方がいい。  このままシャルールと離れてスオーロに向かう兵たちと一緒に仲間を助けに行って、そのままブルーメンブラッドに行こう。  この戦場の中で混乱しているだけだ。  離れてしまえば、シャルールの気持ちは冷めるだろう。奴隷の僕が、庇護を必要とする僕が珍しいだけだ。 「フェルメ様、イグニスさん。僕はスオーロに行きたいです。仲間がいるんです。僕は、龍神の杜人かもしれないけど、これまでは奴隷だった。一緒に生きて来た仲間なんです。どうか、僕をスオーロに行かせてください」 「そのような仲間など……」 「フェルメ様。どうか、仲間が無事であれば、それを確認することが出来たら必ず、ブルーメンブラッドに行きます」

ともだちにシェアしよう!