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王の帰還
イグニスやシャージュは突然のことに戸惑いながら立ったまま頭を下げていた。
「我々は麗しきオオシを失った。なおも戦いを続ける者あらば、スオーロよりの追放を命じる」
男は腰に刺した剣を抜くと、空に向かって掲げ、それを横たわったままのオオシへと向け、数回振ると、腰に収めた。
「……時は満たされることなく、運を逃し、我々は大切な者を失った。死してなお、その魂は受け継がれ、我々に幸運をもたらすであろう」
男はそう言うと、オオシを一撫でして踵を返した。
「我は、スオーロ国第一皇子ハル。シャルール・ディン・エクス王に目通り願う」
良く通るその声は人だかりの後ろにいた僕にもよく聞こえた。
「私はシャルール王の代わりを務める、国王兵団副団長シャージュです。要件は私がお伺いいたします」
シャージュが前に出たが、「我はシャルール王に用がある」と答えた。
「シャルール王は怪我を負って……」
「構わぬ。どこにおいでだ?」
周りを伺う様子に兵たちはざわつく。
何しに来たのだろうか。
「我々は戦う意思などない。シャルール王に直接お会いし、父王の意思を伝えに参った」
シャルールに聞こえるようにだろう、大きな声で言うとシャージュに、「時は無い」とつぶやいた。
「シャルール王に伺ってまいります」
イグニスの声が聞こえて、目の前の兵が引くと、その姿が見えた。
変わった形の箱のような帽子をかぶっていて、着ているものも侍女たちと同じように何枚も重ねたような服を着ている。赤い生地には刺繍が施されている。
雨がかからないように大きな傘を侍女が持っていて、その権力をうかがい知れた。
別れた兵たちの間から見えたハルの視線がこちらに向いた。
「お前は何者だ?」
声は僕を指していたが、僕はさっとその身を引いて、兵の背後に隠れた。
雨をはじく傘の音と共に幾人もの足音が近づいてきた。身をすくめるように肩を上げてうつむいていたが、赤い装飾が施された靴が視野に入り、「面を上げよ」と言った。
おずおずと顔を上げる。
「お前は何者だ。どうしてそのような髪をしている」
銀糸ではあるが青っぽい長い髪は、他の誰にもない。染めてもこんなに綺麗には輝かないだろう。
「……ぼ、僕は……」
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