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王の帰還
「シャージュ、落ち着け。それは、国王の意思だな?」
「はい。国王の意思です」
シャルールの確認にハルは大きく頷いた。
「お前の意思はどうなんだ。ハル」
いくらシャルールが国王でも一国の皇太子を呼び捨てにしていいはずがない。驚いてハルを見たが、「我が国の敗戦は目に見えている。オオシも沢山の兵士も失った。国民は貧困に喘いでいる。我が父王には統治の才は皆無。新王に就いてすでに十数年。隣国ブルーメンブラッドを占拠してもその貧困は変わらず、奴隷を酷使するだけの貧国だ」そう言って大きくため息をつくと、「我は自ら捕虜となる覚悟でここに来た。皇女イチも連れて来た」と剣を拾って腰に収めた。
「イチも一緒とは覚悟ができてのことか」
シャルールが聞くとハルは頷いた。
「イグニス、シャージュ、これよりエクスプリジオンはスオーロを落とす。指揮はゲイルに任せる」
シャルールの言葉に、「スオーロは戦う意思は無いと……」とシャージュが訝しげる。
「そうだ。戦う者は皆、追放。追放された者はエクスプリジオンにて保護する。皇太子ハル、皇女イチは我が城にて捕虜とし、丁重に迎え受ける」
スオーロには既にゲイルが兵を連れて向かっていたはずだ。それを正当化するということだろうか。
ハルは、「スオーロが落ちた際には、この命を捧げよう」と深々と頭を下げた。
「そのようなことは望んでいない」
シャルールがそう言うと、「それではこの戦いは終わらない。苦しめ続けた国民の怒りも収まるまい」と食い下がった。
じっとハルを見つめていた。
この人が、スオーロの第一王子。王族としてスオーロに君臨して、僕達奴隷を苦しめ続けていたスオーロの人間。
僕たちは奴隷として虐げられ、苦しめられ、父親を殺され、仲間を奪われた。
逃げることでしか自由を手に入れることも出来なかった。
沸々と湧き出す怒りに拳を握りしめた。
シャルールは奴隷を開放してくれると言っているけど、この人は自ら国を捨てて捕虜になると逃げ出した。
「そんなの甘えだっ」
一歩下がった場所からやり取りを聞いていたが、怒りに声を上げてしまった。
「貧困に喘いでいたのは、僕達奴隷だっ。毎日毎日こき使われて、食べるものも寝るところも無くてっ、なのに、お前らはっ、こんな服を着て、傘をさして、靴もあるっ。僕達がどんなに貧しい暮らしをしてきたかなんて知らないくせにっ」
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