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王の帰還
それは水の宮殿でも言われた。
シャルールはさらに引き寄せると、肩を抱くようにして腕を回した。
「ディディエ。お前の仲間は俺たちが助け出す。奴隷も解放する。国民は皆、等しく平等だ。新しい国を作るんだ」
シャルールは僕に言い聞かせるようにゆっくりとした口調で話した。
「苦しみを知っているお前だからこそ、できることがある」
そう言って頬を伝った涙を拭きとると肩を離した。
「ハル。ディディエは『龍神の杜人』の末裔だ。水の杜人の唯一だ。我らも今しがた知ったばかりで戸惑ってはいるが、世が世ならブルーメンブラッドの王。ここに三国の王が揃っているとは不思議だな」
シャルールはクククッと笑って、「残りはアウルムだが、直にここに来るだろう」とイグニスを見やった。
「早馬にて知らせを送っています。あちらの戦況も時期分かります」
「この雨がやまないと出立もできないな。後発部隊とアウルムからの兵を待つことにする。スオーロへの攻撃、および戦の指示はシャージュに任せる」
シャルールは苦しそうに眉間にしわを寄せると、ゆっくりと寝台に横になった。
「しゃ、シャルっ」
慌てるイグニスに、「フェルメを呼んでくれ」と言って目を閉じた。
ハルとシャージュ、イグニスと共にシャルールのテントから出た。
ハルは従者によって傘を射し掛けられたが、それを手で制して、僕を振り返って、濡れている地面に膝を着いた。
「私が謝って救われることではないことは承知している。そなたの気持ちが収まることではないことも、しかし、一言謝罪をさせてほしい」
片膝を地面に着いたまま深々と頭を下げる。
「僕に謝っても、僕にはどうすることもできません。シャルール様が今、言われたように、皆が久しく平等な世界ができることには夢があります。僕たちのような奴隷が今後……誰も虐げられない世界ができたら……それを手助けすることができればいいなと、思います」
『苦しみを知っているお前だからこそできることがある』。そう、奴隷だった僕だからこそ、苦しみを理解できる。
「そなたは龍神の杜人。唯一無二の存在であるぞ。そなたさえ望めば全てを手に入れることも叶おうぞ」
「僕はそんなことは望んでない。ただ、自由に、好きなことをして……誰にも虐げられずに過ごしたい」
穏やかに、過ごしたい。
望みは欲張らない。ただ、穏やかに自由に過ごしたいだけだ。
「しかし、そなたに望まれることは多いであろう」
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