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王の帰還
「何というか、シャルにとってあなたは息抜きのような存在なのでしょう。シャルを笑わせるなんて、誰もできないんですから」
「シャルール様は笑わないんですか?」
微笑んで僕の髪を撫でるシャルールを思い出す。
「そうですね。滅多なことでは笑いませんが……最近は笑顔というか……微笑むことが多くなりました」
イグニスは僕を見つめると微笑んで頭を撫でた。
「慈しむ心を持ったのでしょう」
慈しむ心?
首をかしげると、「シャルと共に幼き頃より戦禍に身を投じてきました。幾人もの人を殺し、国のために戦ってきました。そうしていると、麻痺してくるんですよ。人を想う心が薄れていくんです。生きたいと思う心も徐々に薄れていくんです」とこれまでよりも小さな声で話した。
雨音にかき消されないように、少しだけ側に寄るとイグニスの能力のせいだろうか、ざわついていた心が落ち着く気がした。
「まして、シャルは国を背負った身。我々よりも遥かに重い責任を背負わされています。私やシャージュが仕えても、支えてもその心までも支えることは叶いません。口では軽口を叩いても、シャルは闇を抱えている。恋人……といっても周りから勧められただけで、情を交わしたわけではありませんが、そんな女性や情人がいても、シャルは振り返ることはありませんでした。手を、差し伸べることもありませんでした」
国や民のために前に進み続けていたシャルール。国王となった今、その責任はさらに大きくなったはずだ。重圧に押しつぶされそうになっているだろう。
「ディディエ……あなたはこれから自由の身です。もちろん龍神の杜人としての責務はありますが、もし、もしもシャルール様に仕えてくださるなら私はいくらでも尽力し……」
イグニスが深々と頭を下げようとするので、慌てて手で制した。
「イ、イグニス様っ。僕は、僕はこのまま水の宮殿に行こうと思っています」
スオーロに行きたい。仲間を探し、奴隷を開放し、新しい国が誕生する姿を、その勇姿を側で見たい。
だけど、僕は側にいることは叶わない。シャルールは国を建国し、僕は、龍神の杜人の末裔として、フェルメが言ったように子孫を残さなくてはならない。
これ以上シャルールの側にいて甘えるわけにはいかないのだ。
シャルールを、シャルールに想いを募らせる前に、これ以上想わないうちに離れてしまおう。
「杜人の事をもっと知りたいと思っていますし、この雨だけじゃなくて、水を浄化する術も知りたい……ブルーメンブラッドはもう無くなってしまったけど、本当の父や母の事も知りたいです」
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