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王の帰還

 スオーロに連れて行かれた仲間は気になるけれど、シャージュが助け出してくれると言っていた。スオーロを統治するのも時間の問題だ。それに、シャルールは必ず、成し遂げてくれるだろう。奴隷も解放してくれる。だから、僕は宮殿に行く。 「シャルからは引き留めるように命を受けていますが、このままシャルール様とは……」  イグニスの表情が曇った。 「シャルール様やイグニス様には大変感謝しています。エクスプリジオンに連れて行って頂き、客人として扱ってもらい、助けて頂きました。僕が、こんな龍神の杜人だなんてことは驚きましたが、導いてくれたのは御二人や兵士、仲間の皆さんのおかげです」  これで世界を救うことにも繋がる。  奴隷として生きていきた、生きることの意味を見いだせない狭い世界から助けだしてくれた。  僕だけじゃない。これから、スオーロを落としたら新国が誕生し、奴隷は開放されて新しい社会が誕生する。  シャルールが僕を必要と、求めてくれていることはとても光栄な事だ。  だけど、シャルールに求められるものは僕なんかよりも遥かに大きく、重大だ。  そんなシャルールを僕なんかが支え、使えることなんておこがましく思う。  教育も受けていない。字を読むことも書くことも出来ない。知識もない。  シャルールに会えば、シャルールはきっと引き留める。僕の心も揺らいでしまう。 「僕はフェルメ様と共に水の宮殿に向かいます」  自分に言い聞かせるように、強く言葉にした。 「そうですか。シャルはとても悲しむでしょう」 「そんなことは無いですよ。悲しむほどのことではないです。それにシャルール様はこれからとても忙しくなって、僕のことなんてすぐに忘れてしまうでしょう」  僕に求婚なんて、一時の気の迷いだとすぐに気がつくはずだ。奴隷が珍しかっただけだろう。  シャルールが笑ったとイグニスは言うけど、心に余裕が生まれたからだろう。スオーロを落とすためにアウルムと協定を結び大国となった。後ろ盾が出来て余裕ができたということだろう。  スオーロの皇太子も今はここにいる。  大怪我を負っていても、勝利は確実で部下に対戦を任せるほどだ。 「ディディエッ」  少し離れたところから呼ぶ声が聞こえ、顔を向けるとヴァレンがこっちに向かってくるところだった。 「イグニス。あっちで呼んでるぞ」 「ディディエが龍神の杜人だと分かって、合点の行くことが多々ありました。気が付かなかったのは私も同じです。シャージュのところに行ってきます」  イグニスはヴァレンを避けるようにして出立の準備をしているシャージュの元に行ってしまった。  ヴァレンは笑って、「水をありがとう」と言った。 「僕は何もしていません」 「さて、俺も働いてくるかな」  雨に濡れた眼鏡を拭き取ると行ってしまった。

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