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彷徨う者

 雨は徐々に小雨に変わり、霧雨に変わった。  雨雲に覆われた空はすっかり日が落ちて、辺りは暗闇に包まれたが、火の杜人達によって点けられた松明で簡易的に作られた駐屯地は明るかった。  兵士たちはこれからスオーロを制圧しに行く準備に忙しなく動き回っている。  僕はフェルメと一緒に水の宮殿に向かう準備をしていた。  ブルーメンブラッドの宮殿にはエクスプリジオンから護衛の兵が送られていたが、壊滅したと報告を受けている。先に宮殿の様子を見に行かせた先発隊からの報告はまだだが、護衛兵の数人がエクスプリジオンにたどり着き、宮殿にいたスオーロの兵は引き、宮殿は空だと報告を受けた。  スオーロの皇太子ハルと皇女イチはオオシの亡骸と虎を連れてエクスプリジオンに早々に出立した。  シャルールはずっと横になったままで、ヴァレンが付き添っていた。 「早朝に出発する兵たちと共に出発しましょう。途中までは一緒ですから」  フェルメはそう言うと自分に当てられたテントへと戻っていった。  僕は……シャルールがいるテントを見やったがそこへは向かわず、兵士たちのテントへと向かった。  そっと入り口の布をめくると、「ディディエ様っ」と口々に声を上げて地面に額をこすり付けるようにして頭を下げた。 「あ……」  思わず声を上げてしまった。怪我を負った兵士や明日の準備をしている者など、そこにはたくさんの兵士がいたが、僕の姿を見るなりさっと跪いて頭を下げて、道を作るように避けた。 「す、すいません」  慌ててテントの入口を閉めると元いたシャルールのテントの裏側へと戻った。  胸がドキドキする。  これまでの態度と一変して、『様』なんて呼ばれて戸惑ってしまった。  目立って仕方が無い。うつむくと顔を覆うように銀糸の髪が視界を遮った。その髪を掴む。  水の宮殿にはイグニスやフェルメのように森の杜人がたくさんいる。その中では銀糸の髪は普通なはずだ。  エクスプリジオンはシャルールのように赤い髪が多いようだから、僕は目立って仕方が無いだろう。元奴隷というだけで悪目立ちするのは目に見えている。  触れ合った唇に指先で触れた。  こんな想いに触れることなんて、あるとは思えなかった。

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