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彷徨う者

 奴隷から解放されることを目標にして、必死に耐えて生きて来たから。解放されたその先を……自由を手に入れてからの先を考える余裕なんてなかったから。  今、スオーロは崩壊を迎えようとしている。  そして、新しい国に生まれ変わろうとしている。  僕ができること、僕に求められているもの。  新国の王となるシャルール。  ため息をついて服の裾をぎゅっと握った。  イグニスやシャージュ達のテントに入れてもらったが、眠気は一向に訪れなかった。  うっすらと明るくなった頃、雨は止んだ。  フェルメに緑色のマントを被せられて、出発した。  シャルールには声をかけなかった。  イグニスに見送られて、手を振って別れた。いくら水の宮殿が空とは聞いていても、もしもということがあるから、気を付けるように念を押され、スオーロを討伐したらすぐに宮殿に向かうと約束してくれた。  焼野原となった休戦地帯を避けて、途中からは馬を降りて徒歩で元ブルーメンブラッドの水の宮殿へと向かった。  雨で流されたのか、焦げた匂いは無く、湿った土の匂いと瑞々しい草木の匂いが立ち込めている木々の間をかき分けるようにしてフェルメと従者グルードの後ろを歩き続けた。  スオーロの兵に見つからないように、周りを警戒しながら歩く。緑色のマントは姿を隠すのに重宝した。 「疲れてはいませんか?」  大きな木の根元に休憩のために腰を下ろした。フェルメは周りを見渡して、人がいないことを確認すると僕の目の前に跪いた。 「大丈夫です」  疲れなど感じない。龍神の杜人になって、この姿になってからは疲れを感じない。 「私はあなたを癒すことはできません」  フェルメの言葉に首をかしげてから気が付いた。  フェルメと初めて会った村で、足を痛めていた僕を回復させてくれようとした時のことを思い出した。 「森の杜人と龍神の杜人は同胞のようなもの。力が強い者同士では反発してしまうのです」  ああ、だから熱いと感じたのだろう。 「大丈夫です。この姿になってから疲れや痛みを感じることが少なくなりました」 「龍神の杜人は治癒力が高いというのは本当のようですね」  フェルメはそういうと、「明日の夕方には宮殿に着くでしょう。宮殿やその周辺は龍神の庇護を受けている。より力が高まるでしょう」と説明した。  そうだ、シャルールは反対に抑圧されて力を消耗してしまっていた。

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