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彷徨う者
「あの龍は?」
空を飛んでいたのはあの龍ではなかったのだろうか。
「あれは、先代の国王の半身です」
「半身?」
「龍は龍神の杜人と共に半身として生まれます。主が死ねば、この湖の杜として石像となると言われています。先々代の龍の半身は湖の底に沈んで卵を守っていると言われています」
フェルメは丁寧に説明してくれた。ここから宮殿はよく見えた。
辺りは徐々に暗くなってきているが、宮殿に明かりが灯る様子は無く、ここから見える窓にも人影は無かった。
宮殿に少しずつ近づくが、足元にはエクスプリジオンの兵の死体がいくつも倒れている。雨が降ったせいだろうか、湖に流された物もいくつかあるようだ。砂浜となっている畔は白い砂が赤黒く染まっている。
「水が浄化されれば綺麗になります」
足元を見つめていると、グルードにそう言われた。
「この戦いが終われば、丁重に弔います」
フェルメはそう言って、目を開けたままの死体の瞼を手で押さえた。
宮殿内がどうなっているのか。外にこれだけの死体が倒れていて、宮殿内が無傷のはずはない。
「総領達が無事だといいんですが……」
「私が先に行って、様子を伺ってきます」
グレードはそういうと、マントを翻して宮殿へと駆けて行った。
「フェルメ様?」
「大丈夫です。ああ見えて、グルードはブルーメンブラッドの騎士です」
グルードの後姿を追って、宮殿を見つめる。
「あっ……」
思わず出た声を、フェルメの手によって遮られて、すぐ横の茂みへと押し倒された。
「グルードは無事です」
フェルメはさっと身を起こすと茂みから宮殿を見つめた。
「お前は誰だ」
宮殿の上部のテラスから弓が放たれたのだ。薄暗い中で弓を引き絞る音が響く。
この声には聞き覚えがあった。
「イグリアッ」
声の主に向かって叫んだ。
「僕です。ディディエですっ」
「ディディエッ」
叫んだ僕にフェルメは慌てた。
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