131 / 167
彷徨う者
フェルメも気が付いているはずだ。
この状況がおかしいことに。
僕たちは、『壊滅した』と聞いて、慎重にここまで来た。イグリアが生きていたことに安堵はしたが囚われることも無く、ほかの兵士も無事でいて、総領もいるという。
フェルメは少し緊張した様子ではあるが、兵士が近くにいるせいか、僕に話しかけては来ない。導かれるがままに兵士の後に続いた。僕の後ろにはグレードが付いてきていて、その後ろには兵士もいる。
宮殿の中に入ると目を疑った。
眩しいほどに白く輝いていた壁面や大理石の床、それが、赤黒くシミを作り、充満した生臭い匂いに吐き気がした。
先を歩くフェルメが足を止めたが、「さっさと歩け」と後ろにいた兵士が剣を抜いた。
「どういうことですか?」
フェルメの問いかけに兵士は笑って、「スオーロだけが敵じゃないってことだよ」と答えた。
「あいつに刺されてさっさと死ねばよかったのにな」
あいつとはイグリアのことだろうか。
どういうことだろうか。
ここにいる兵士はエクスプリジオンの甲冑を身に着けているし、顔見知りの兵士だっている。数は少ないが、確かにエクスプリジオンの兵士だ。
後ろから押されるようにして宮殿の中を歩かされる。
足元には無残に切り裂かれた兵士の死体が幾重にも折り重なって、倒れている。
「邪魔だな」
言いながら蹴散らすように前方の兵士が進んで行く。
宮殿の外に死体は見当たらなかった。この中で戦があったのだろうか?
さほど広くは無い宮殿内を歩かされて、そっと見回す。血飛沫で汚れた壁には無数の傷がいくつもある。それは剣で傷つけた跡とは違って見えた。
「ここから降りるぞ」
血塗られた壁の一角。誰かが血の付いた手で擦ったのだろう、手の跡が付いた扉を開くと、真っ暗な階段が下へと伸びていて、獣の唸り声が響いてきた。
「まだ生きてるのか」
兵士はそう言うと壁に立てかけられた丸太を手にとって壁に付けられたランプから火を付けた。
「さっさと降りろ」
後ろから促されて、その階段をゆっくりと降りた。
階段は上の宮殿とは違い、切り出した石を積み上げただけになっていて、階段も気をつけなければ踏み外してしまいそうだ。
ともだちにシェアしよう!