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彷徨う者
下へ下へと伸びる階段は一直線に伸びている。そこの方から聞こえる獣の唸り声はますます大きくなった。
「この先は牢獄ですよ」
フェルメが言った。
「ああ。この先にお前たちの仲間が待ってるよ」
兵士は笑って言った。
「どういうことですか?」
この先は牢獄で、獣の唸り声しかしない。松明の明かりが届かないところは真っ暗だ。
「これは……」
先を歩いていたフェルメが言葉を失って立ち止まった。
「ああ、爺さんも事切れたか」
兵士はそう言って松明を向けた。
そこには人らしい肉の塊が血まみれで転がっていた。牢屋の柵越しにフェルメは、「総領……」と呼びかけた。松明に照らされて牢獄の奥にキラッと光る物に気がついた。それは、オオシが連れていた虎だ。一匹ではない。巨体は音もなくゆっくりと奥を歩き回っている。
「ここには餌もないからな」
そう言って柵を蹴ると、「ぐぅぁああっ」っと虎が唸り声を上げた。
「お前らの檻はこの先だ」
「私達をどうしようと言うのですか?」
「大事な交渉のための人質だ」
そう言うと更に奥へと歩き出した。
「フェルメッ」
通り過ぎようとした牢獄の奥から呼び止める声がした。フェルメが振り返ると、「よく、戻った」と銀髪の初老の男が柵を両手で掴んだ。
「ああ、この子が龍神の杜人か」
男は柵越しに膝を付いて深々と頭を下げた。
「この子が……」
その後ろでも銀髪の男たちが膝を付いた。
「総領達も無事でな……」
「さっさと歩けっ」
後ろの兵士がガシャンっと大きな音を立てて柵を蹴った。
「もうしばらく、辛抱してください」
フェルメはそう言うと先に進んだ。僕は黙ってフェルメの後に続いた。
押し込まれた牢獄は地下の湿気でかび臭く、苔も生えていた。
「しばらく大人しくしてろ」
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