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彷徨う者
そう言うと兵士たちは松明の火を通ってきた通路の壁にある楼台へと移していなくなった。
「これはどういうことでしょうか?」
同じ牢獄に入れられたフェルメとグレードに聞くと、フェルメは、「さっきの兵はエクスプリジオンの兵士だけでは無いようですね」と呟いた。
「傷を診せてください」
フェルメに言われて背中を見せた。
「傷は浅いですが、こんな汚い場所ですから化膿などしなければいいんですが」
「それほど痛くもないですし、大丈夫ですよ」
捲った服を元に戻した。
「エクスプリジオンの兵以外にもスオーロやアウルムの兵も紛れていました。それに、宮殿内の死体はきっと先程の獣の仕業でしょう。あれを操れるのはスオーロの白金の杜人だけですから」
「白金の杜人はそんなことができるんですか?」
白金の杜人は火の杜人や森の杜人と違って普通の人間だ。戦略に長けているとはいってもその能力は謎に包まれていた。
「白金の杜人は特定の動物を操ることのできる能力を持っています。虎はその代表的な生き物です」
それで、オオシは虎を使っていたのか。
先程の牢獄の中にいた虎も白金の杜人が操っていたのだろう。ということは、この兵の中に白金の杜人がいるということだろう。
「『スオーロだけが的じゃない』ということは、我々の相手はスオーロの兵では無いということです。この者達が誰なのか……」
フェルメはため息をこぼすと床に座り込んだ。
「フェルメ様、お疲れでしょう。しばらくお休みください」
グルードはそう言うと、自分の着ていたマントをフェルメの肩にかけた。
「ここは冷える。私のことはいい」
フェルメは顔を上げてマントを返すと、「動揺してしまった。すまない」と言って立ち上がった。
「総領達が囚われているのです。まして、あのような姿を見せられて動揺しないはずがありません」
グルードは返されたマントを腕に持った。
「総領達って、何人もいるんですか?」
この宮殿を総括している人なのだとばかり思っていたが、『達』と言われ、牢獄にも数人囚われていた。
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