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彷徨う者

「総領は7人います。いずれも森の杜人の高能力者で代々ブルーメンブラッドの王家、龍神の杜人に仕えて来た者達です。総領と呼ばれてはいますが、他国の言い方からすれば『従者』です」  フェルメに促されて向かい合って座った。 「私もその従者の一人です。総領の誰もがブルーメンブラッドがスオーロによって滅ぼされた時、どうして一緒に逃げなかったのかと、苦々しく悔しく思っています。私は最近総領になったばかりで、勉強不足ですが他の総領達は龍神の杜人や王家の歴史など詳しく知っています。見た限りでは後2人……逃げられたのか、殺されたのか……」  フェルメはうつむいて拳を床に叩きつけた。  かける言葉が見つからない。 「フェルメ様、ここを出る方法は無いんですか?」  フェルメは首を横に振った。 「ここの存在は宮殿内でもわずかな人数しか知りません。出入口はあそこしかないのです。それにこの牢獄の真上は湖の底です。壁や天井を壊せば、水圧で一気に壊れ、宮殿も崩れる可能性があります」  一直線に伸びていたのは、宮殿から湖の底へと伸びていたからだと分かった。大きな湖の底。ここが壊れれば一気に水は吹きあがるだろう。牢獄が崩れれば、湖の底が一気に深さを増して、畔に建っている宮殿は湖に向かって崩れる可能性もある。 「フェルメ様。イグニスさんはスオーロを討伐した後にここに来てくれると言ってはいましたが、それがいつになるかは分かりません」  鎖国するとまで言ったスオーロがそうすんなりと国を明け渡すことはないだろう。 「それに、ここにいる兵士たちが言っていた、『大事な交渉』というのも相手が誰で、いつ行われるかもわかりません」  その動きを待っていても埒は開かないだろう。助かる見込みもない。上の宮殿の惨劇を見て、生きて帰れるなどと安穏に思えるほど呑気でもいられない。 「宮殿を……出ましょう」 「そんなことは私が許しませんっ」  フェルメは顔色を変えた。僕が考えたことが分かったようだ。 「このブルーメンブラッドを幾年にも渡り、守り、水を守り続けたのはこの宮殿です。湖の水を他国へと送り、人々を潤してきたのもこの宮殿があったからこそ。この宮殿には噴水があるんですよ。宮殿が壊れればそれも壊れてしまい、水は止まってしまいます」  フェルメは早口で訴えた。 「他国からの脅威にさらされ、噴水を守り抜けたのはこの宮殿があったからです。ブルーメンブラッドがそれさえも失ってしまっては、我々は路頭に迷うのですよ。水の宮殿はブルーメンブラッドそのものです。龍神の杜人であるあなたが見つかって、これから国を治めようという時に……」 「フェルメ様っ」  興奮して話すフェルメの言葉を遮った。

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