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彷徨う者

「フェルメ様。国は、ブルーメンブラッドはすでに崩壊し、無くなった国ですっ」  ブルーメンブラッドはスオーロによって制圧され、崩壊した。それは僕が産まれるより前だ。僕はブルーメンブラッドという国を知らない。知らないけど、その国の奴隷の子として、奴隷にされた。 「それをこれから再建しようと……」 「シャルール様が新国を作るのです。すでに無くなったブルーメンブラッドはもう終わったのです」 「何を言っている。あなたは国王の血筋。間違いなく龍神の杜人で、国王となる身です」 「僕は、僕は国王なんかにはならないっ」  大声で叫んだ。フェルメは驚いて目を見開いて身を引いた。 「僕は、国王になるためにここに来たんじゃない。龍神の杜人のことをもっと知るためにここに来たんです」  水を生み出すことのできる龍神の杜人。龍を操り、水を浄化する。姿を隠す術も持っている。その方法を知るために。水を生み出せるのなら、世界中に水を届けたい。人々を助けるために。 「水に飢えた人たちを僕は助けたい。アウルムのように水に飢えた土地を緑豊かな地に変えたい。国王なんて立場も、宮殿という器もいらない。僕が、僕がその噴水になればいいんだ」  雨を降らす術を得ることができれば、僕はどこへだって行ける。  生きていればいいのだから。 「僕は生きる」  僕は、生きて、この身を生きることに捧げよう。  僕にできることはそれだ。  シャルールは僕に『苦しみを知っているお前だからこそできることがある』と言った。ハルは、『多くを望まれるだろう』と言った。  それは、『生きること』。 「僕は、シャルール様の側で生きたい」  ぎゅっと胸を掴んだ。  欲張りすぎかもしれないが、ブルーメンブラッドはすでに無いのだ。国王という王位もすでに無い。僕が国王の血筋でもすでに縛る物は無いのだ。  僕が生きて、龍神の杜人として生きていくことさえできれば、それでいいのだから。総領として宮殿を守り、龍神の杜人を守り、探し続けていたフェルメ達。 「新国ができたら、僕たちは自由だ。森の杜人として、人々を助けてほしい」  怪我や病気で苦しむ人々を、奴隷や貴族、分け隔てなく助けてほしい。 「自由……」  フェルメは呟いて自分の両手を見つめた。

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