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第136話
僕を求めてくれるシャルールの元へ。
「フェルメ様。僕はまだ龍神の杜人になったばかりで知らないことばかりです。総領達にも教えてもらわなければならないことも沢山あります。だから、ここから出ましょう」
これからのことはここを出てから考えよう。
助けを待つよりも、自分から前に進もう。
「分かりました。私はあなたの教育係として邁進いたします」
フェルメが頭を下げた。
「ここを出るのは命がけですね」
グルードは立ち上がると、壁を探り出した。
「老朽化は進んでいます。先ほどの階段は水が侵食していました。どこか、弱いところを叩けば脆くも崩れるでしょう。他の牢獄の総領達にも知らせなければ」
フェルメは立ち上がると監守役の兵士の様子を柵越しに見た。
監守は見えるだけで3人はいる。総領と僕たちを合わせるとここに入れられているのは7人だ。湖の底に沿うように作られた階段の先に作られた牢獄。天井のすぐ上は水だ。圧力はかかっているだろうし、そこが一番脆そうではある。
見上げていて気が付いた。
そう、龍ならば水中にも来ることができるのではないだろうかと。あの大きな翼や巨体で湖に飛び込めば老朽化の進んだ牢獄はひとたまりもないだろう。
「フェルメ様。龍を、龍を呼びましょう」
「龍神をですか?」
グレードは怪訝な顔をした。
「呼び出す術は無いのですか?」
振り返ったフェルメも怪訝な顔をした。
「ディディエ……。私は龍神の杜人ではないので、龍神と話す術はありません」
龍神と話す。
「僕は、龍神の言葉を理解できます」
会話ではないけれど、龍神の言っていることはなんとなく理解できた。
だけど、僕からの呼びかけを龍が理解できるかは不明だし、今までも呼びかけたことは無い。
「ほかの総領の中には龍神を呼び出す術を知っている者もいるかもしれませんが、ここから出られないことには。しかし、龍神をこんなことのために呼ぶなんて……」
フェルメは首を横に振って、牢獄の中をまた探り始めた。
「こんなことって……。もしも、僕がこのままここで殺されでもしたら、水は永遠に戻らないんですよ」
水が唯一枯れなかったのは、僕が生きていたからだ。それに、龍神と杜人が対で共生しているというのなら、僕が死んだら龍神もあの湖畔の石像のようになるということだろう。
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