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彷徨う者
「僕は龍神に助けを求めようと思います」
牢獄の壁。この向こうは湖の水があるはずだ。そしてこの上にも。あの大きな龍神が湖にやって来てくれさえすれば、状況は変わるだろう。
どうか、ここに来て。
僕たちを助けて。
僕はここを出なければならないのだから。
こんなところで、囚われて利用されるわけにはいかない。
どうか、応えてほしい。
牢獄の壁に両手をついて、その壁の向こうの水に願いかける。
ここが龍神の杜人の制圧している地ならば、その能力は高められるはず。どうか、この願い龍に届け。
ここに来い。
「ディディエ。無茶なことはやめましょう。交渉があるというのなら、その時にはここを出られるでしょうから、その時に隙をついて抜け出す方が得策です」
「それじゃあ、ほかの囚われている人たちはどうするんですか。僕たちだけが助かればいいと思っているんですか」
獣に襲わせるような人たちだ。僕たちが逃げ出せばすぐさまほかの囚われた総領達を殺すだろう。
そして、交渉相手は分からないが、すぐに僕たちも殺されるだろう。
「後ろばかり向いてはいられないんです」
「分かりました」
フェルメは頷くと、「少々手荒ではありますが、協力しましょう」と言ってくれた。フェルメは腰に下げていた刀を抜くと、「そこの兵士よ。我々をここから解放せよ」と呼びかけた。
兵士は笑いながら近くに寄ってきて、「そんなことするわけないだろう」と言った。
ここの牢獄が最奥だ。入口の方からもう一人兵士がやってきて、「バカじゃないのか? そんな簡単に出してやるわけないだろう」と言い放った。
フェルメは、「それでは致し方あるまい」と言って、柵の隙間から剣を振り下ろした。
それは『ガキンッ』と鋭い音を立てて柵に当たり、火花を上げた。
「そんなことしてもここの檻は壊れやしないよ」
兵士は笑って、フェルメを挑発した。
フェルメはこちらに目配せをすると、持っていた剣を勢いよく檻の隙間から投げた。と、同時に、「ぐぅわぁぁ」と目の前の兵士が膝を着いた。
その足元は見る間に赤い血だまりができていく。
「どうしたっ」
牢獄の入口側からほかの兵士の声と駆け寄ってくる足音が聞こえた。
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