138 / 167

彷徨う者

 フェルメの投げた剣が兵士の腹を裂き、背中からその切っ先が出ている。フェルメの横にいたグリードが、駆け寄って檻に近づいた兵士を切り付けた。  返り血が檻の中にまで降り注ぐ。切り付けられた兵士が檻の方へ倒れると、フェルメは一度しゃがみ込んでから、「さっさとここから出せ」と叫んだ。 「こいつらをいくら殺しても仲間はいくらでもいるんだ、無駄な足掻きをするな」  ひと際体格のいい兵士はそういうと、足で檻を蹴った。 「無駄かどうかは、私が決める」  フェルメはチャリンと音を立てて手の中の物を見せた。 「それは……こっちに寄越せ」  檻の外の兵士は慌てている。自分の腰にあるはずの物を探って、床に倒れてもがいている兵士の腰を探った。  フェルメの手にはいつの間に手に入れたのか、カギの束が握られていた。 「昔取った杵柄です」  振り返ったフェルメは檻の入口から奥へと後ずさる。兵士からは手は届かない。 「ここにいる兵はどうやら、寄せ集めのようですね。同じ目的を持った同士に過ぎない。短時間で集められたせいか稚拙でずさんです。誰が交渉相手かは分かりませんが、それも本当かどうか……」  フェルメはカギをチラつかせると兵士は、「交渉は行われる」と答えた。 「失敗すると、すぐに首を切られる」  カギを簡単に奪われたことは、失敗なのだろう。体格のいい兵士は狼狽えた。 「カギは返してもいいですが、私たちをここから出しなさい。勝手に逃げたとでも言えばあなたの身は安全……かもしれませんよ」  床でのたうち回っていた兵士は、転がる力も尽きて来たのか、か弱い唸り声をあげている。足元の兵士をちらっと盗み見た兵士は、「俺の代わりなんていくらでもいる。交渉が成功すれば、世界は我々の物だ」と言い返した。 「世界?」  フェルメは首をかしげる。 「そうだ。俺たちは世界を手に入れるんだ。スオーロなんてブルーメンブラッドの若王にくれてやる。俺たちの目的は世界だ」  スオーロにはシャージュ達が攻め入っているはずだ。スオーロを落とすのは時間の問題だろうが、世界が目的とはどういうことだろうか。 「それは急ぎ、シャルール殿下に伝えなければ……」  フェルメの顔が一変した。 「あなた達の交渉相手は……」  何かを悟ったらしいフェルメの声が震えた。 「ここでお前たちを逃せば、俺たち全員が殺される。交渉には俺たちの命がかかっている」

ともだちにシェアしよう!