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彷徨う者
フェルメの投げた剣が兵士の腹を裂き、背中からその切っ先が出ている。フェルメの横にいたグリードが、駆け寄って檻に近づいた兵士を切り付けた。
返り血が檻の中にまで降り注ぐ。切り付けられた兵士が檻の方へ倒れると、フェルメは一度しゃがみ込んでから、「さっさとここから出せ」と叫んだ。
「こいつらをいくら殺しても仲間はいくらでもいるんだ、無駄な足掻きをするな」
ひと際体格のいい兵士はそういうと、足で檻を蹴った。
「無駄かどうかは、私が決める」
フェルメはチャリンと音を立てて手の中の物を見せた。
「それは……こっちに寄越せ」
檻の外の兵士は慌てている。自分の腰にあるはずの物を探って、床に倒れてもがいている兵士の腰を探った。
フェルメの手にはいつの間に手に入れたのか、カギの束が握られていた。
「昔取った杵柄です」
振り返ったフェルメは檻の入口から奥へと後ずさる。兵士からは手は届かない。
「ここにいる兵はどうやら、寄せ集めのようですね。同じ目的を持った同士に過ぎない。短時間で集められたせいか稚拙でずさんです。誰が交渉相手かは分かりませんが、それも本当かどうか……」
フェルメはカギをチラつかせると兵士は、「交渉は行われる」と答えた。
「失敗すると、すぐに首を切られる」
カギを簡単に奪われたことは、失敗なのだろう。体格のいい兵士は狼狽えた。
「カギは返してもいいですが、私たちをここから出しなさい。勝手に逃げたとでも言えばあなたの身は安全……かもしれませんよ」
床でのたうち回っていた兵士は、転がる力も尽きて来たのか、か弱い唸り声をあげている。足元の兵士をちらっと盗み見た兵士は、「俺の代わりなんていくらでもいる。交渉が成功すれば、世界は我々の物だ」と言い返した。
「世界?」
フェルメは首をかしげる。
「そうだ。俺たちは世界を手に入れるんだ。スオーロなんてブルーメンブラッドの若王にくれてやる。俺たちの目的は世界だ」
スオーロにはシャージュ達が攻め入っているはずだ。スオーロを落とすのは時間の問題だろうが、世界が目的とはどういうことだろうか。
「それは急ぎ、シャルール殿下に伝えなければ……」
フェルメの顔が一変した。
「あなた達の交渉相手は……」
何かを悟ったらしいフェルメの声が震えた。
「ここでお前たちを逃せば、俺たち全員が殺される。交渉には俺たちの命がかかっている」
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