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彷徨う者

 水圧で一気に牢獄が壊れたのだ。  泥や岩、石が舞い上がり、視界は黒くどこに向かえばいいのかも分からない。  青白い光が瞬く間に近づき、一気に掬い上げられた。 「ゲホッ、ゲホゲホッ」  咳き込んで打ち上げられた砂浜に両手両膝を付いて起き上がった。 「おいっ、無事か?」  聞き覚えの無い声に顔を上げると、若い男が立っていた。 「ディディエっ」  呼ばれて振り返ると、水面にフェルメとグリードが顔を出していた。他にも数人の顔が見える。 「来るのが遅れてすまなかったな」  振り返った湖の上には龍が羽ばたいている。その背には数人の人の姿があった。  男が手を伸ばして、僕を引き上げて立たせてくれた。ずぶ濡れのこの男が水中から僕を助けてくれたようだ。 「俺はニハル・アレサ・ブルー。龍神の杜人の末裔だ」 「……末裔」  ブルーとは、ブルーメンブラッドの古い王家の名だ。 「俺達の他にも末裔はたくさんいる。その中から、『龍神の杜人』にお前が選ばれた」  湖の畔、少し離れたところに龍神が降りた。その背からこっちに向かって2人走ってくる。 「ディディエ。無事でしたか?」  湖から上がったフェルメに、「かすり傷ですみました」と答える。 「お前、名は何という?」  男に聞かれて、「ディディエです」と答えた。 「アレサッ、この子が杜人か?」 「若いなっ」  走ってきた2人が僕をまじまじと見つめる。 「お前たちは何者だ?」  フェルメが大きな声で僕の前に出た。 「ブルーメンブラッドの森の杜人か。無事で何よりだ。しかし、悠長に話をする暇はないようだ」  背中の方で、声がして剣のかち合う音が響いた。  湖から浜に上がってくるのは見方だけじゃない。半壊した宮殿や脇殿からも次々に兵士が向かってくる。 「馬は無いのか?」  兵士に応戦したアレサと2人の男に聞かれて、「馬は無い」とフェルメが答えた。 「では龍まで急げ。数人なら運んでやれる。お前らの仲間は何人いるんだ?」

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