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彷徨う者
フェルメとグレード、森の杜人達、それにイグリアもいる。
「フェルメ様。我々は森の中を進み、エクスプリジオンに向かいます。どうかお先に」
他の牢に閉じ込められていた杜人だろう、フェルメに呼びかけた。
「こいつらはどうせ放っておいてもエクスプリジオンに向かってくる。今は一刻も先にエクスプリジオンに向かい、シャルール様に報告せねば」
「火の杜人か」
アレサに腕を掴まれた。
「急いで龍の背中に回れっ」
襲ってくる兵士に応戦しながら、湖を周り巨大な龍の元へと急いだ。
近づいてその巨体にさらに驚いた。赤黒く硬い皮膚と毛で覆われた背中、そして大きな翼。
上空を飛んでいる時には気が付かなったが、頭の上は鮮やかな赤い毛で覆われていた。
「背中に乗れ」
引き上げられるようにして背中によじ登る。後ろを追ってくる兵士は初めてまじかに見る龍に戦いて近づいてこない。
「グワァァァアアアアッ」
低く唸るように声を龍が上げると、たたまれた翼を大きく広げた。
兵は踵を返す者、尻餅をつく者などで攻めてこようとしなかった。
「わぁあっ」
「しっかり捕まっていなさい」
アレサが僕の背中を覆うようにして覆いかぶさった。大きく揺れて、瞬く間に上空へと舞い上がると同時に強い風が巻き起こった。
「さぁ、命じなさい。お前が向かう場所へ」
向かうべき場所。
僕が、今、向かうべき場所は「エクスプリジオンの城へ」と大きく叫んだ。
フェルメが気付いたように、僕も気が付いた。
あの兵を操っている人間が誰なのか。
そして、エクスプリジオンを手に入れ、新王になり替わろうとしている者が誰なのかを。
シャルールが瀕死の重傷を負っていることを知って、自国を捨て、騙し、世界を手に入れようとしている者を。
「僕は、許さない」
龍は大きく旋回してエクスプリジオンへとその方向を変えた。
眼下に広がるのは緑の森だ。
「アレサ、助けてくれてありがとう」
風の音でかき消されないように、助け出してくれた礼を伝えると、「まだこれからだ」と言った。
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