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彷徨う者

「助けを呼ぶ声に、龍が反応した。お前はこの世界を救いたいのだろう。我々はお前の意思に従うまでだ」 「我々って……末裔はたくさんいるの?」  俺たちのほかにも末裔はたくさんいるとアレサは言ったがそれはどういうことなのだろうか。 「龍神の杜人は、世界に一人しか覚醒しない。先々代はお前の父である、ブルーメンブラッドの皇子だった。先代は年老いた俺の祖父だった。祖父が亡くなって、お前が次の杜人になって覚醒したんだ」 「杜人は遺伝じゃないの?」  フェルメは国を襲われて逃げた皇子の子どもを探していたはずだ。 「その血がより濃い者に引き継がれるんだ。だから、次の杜人は俺かとも言われていたが、まさか、行方不明の皇子の子が生きているとは思わなかった」  アレサは、「生きていてよかった」と嬉しそうに笑顔で言った。  龍神は風を起こして、森の上空を飛行していく。  馬でも4日はかかる道のりを、瞬く間に飛び越え、視線の先にはエクスプリジオンが見えた。その中心には大きな城が建っている。 「何の煙だろう」  城を囲むように広がった街のいたるところから黒い煙が上がっている。  龍神によって齎された雨はすでに止んではいるが、大量に降り、潤っているはずだ。  眼下の森はアウルムの方向に向かって焼け落ちてはいるが、火は消えている。  森からエクスプリジオンに攻め入ったスオーロの兵と未だ、戦っているのだろう。街からは砲弾の怒号と狂気が響き渡っている。  まだ、戦いは終わっていないのだ。  最先の戦いが終わっても、後方までは未だにいきわたっていない。  雨がふり、水不足が解消されても、その狂気の火種が未だ収まっていない。  その隙をついて、エクスプリジオンを手に入れ、新王になり替わろうとしている者がいる。 「城の上に、おろして」  シャルールと別れた焼野原からここまでは1日。早ければすでに城内に入り込んでいるだろう。  すでにシャルールが新王とはなっていても、重傷を負ったシャルールを秘密裏に抹殺し、その死を公言し、エクスプリジオンの王となろうとする者。  スオーロの……皇子、ハル。  重傷を負ったシャルールよりも先に、ハルはエクスプリジオンに出立した。  高度を下げて、街の上を旋回する。  上を見上げる兵士や町の人、歓喜と狂喜が入り乱れて怒号が耳に届く。 「シャルール様が戻るまで、城を、王座を、守らなければ……」  ハルがどこにいるのかは分からない。

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