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彷徨う者
街の中は混乱していたが、それらしい人物は見あたらなかった。
ゆっくりと城に近づいて、見張り台の横へと龍神は降り立った。そこを守っていた兵士は驚き、後退して、剣を構える。
「ディディエですっ」
龍神から飛び降りると、見知った兵士へと声をかけた。
「お前が、ディディエ?」
龍神の杜人の姿に変貌していたことを思い出して長い髪をかき上げた。
「シャルール様は? まだ戻っていませんか?」
すぐ後ろにフェルメが降りて、兵士に呼びかける。
「フェルメ様っ」
慌てた兵士が膝を着いて恭しく頭を下げる。
フェルメは僕の前を横切ると、「今のあなたを認知できる者は少ないでしょう。私の後に続いてください」と言って、城内へと進んだ。
僕の後ろにはグレードが続き、その後ろにアレサとその仲間が続いた。
「スオーロの皇子は到着しているのか?」
「先ほど先発の兵が到着しましたが、ハル様はまだ到着していません」
兵士は答えながら、下へ下へと進んで行く。
「ハルは到着次第、取り押さえて牢獄へ」
「しかし、シャルール様からは捕虜ではあるが、丁重に迎え受けろと伝達されています」
「それはいつのことだ?」
僕たちが出発するより先にハルは出発したが、先発はその先だ。ハルの陰謀にまだ気づいていないのだろう。
「我々はブルーメンブラッドに向かい、この戦いの真の敵を見定めてきた。シャルール様も未だ気づいておらぬかもしれぬ」
「そうでしょうね」
兵士は急に振り返ると剣を引き抜いて襲い掛かってきた。突然の行動に驚いたフェルメが身を引くより先にグルードが手にした剣を後ろから突き刺した。兵士は胸に剣を受けたまま後ろへと倒れ込み、階段を転げ落ちた。グルードの後ろにはアレサたちが付いてきているがその後ろの兵士もアレサの仲間が瞬く間に殺傷した。
「すでに中に入っているということか」
ハルが到着しているのか、逆兵が入り込んでいるのか。不明だが急いで階段を降りて広間へと急ぐ。
王座のあるそここそがハルの目的の場所のはずだ。そこにはエクスプリジオンの王冠が置かれている。
ブルーメンブラッドを落としたスオーロはすでにエクスプリジオンによって落とされかけている。アウルムはエクスプリジオンによって共和国となり、そのエクスプリジオンの王は瀕死の状態で未だ帰国していない。
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