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彷徨う者

 空席の王座。  シャルールを殺し、その座に就いた者が4国を総べる新国の王となる。  ハルがシャルールの元に来たのはシャルールの安否を確認することと、スオーロが降伏しないという情報を与えるため。  降伏しないとなれば、挙兵して武力によって攻めなければならない。その間に、瀕死のシャルールを討ち、手薄のエクスプリジオンを奪う。  従順そうな態度は嘘だったのだろう。  すべては策略のうちだったのだろう。  水の宮殿にいた寄せ集めの兵士たちの中にはエクスプリジオンの兵士も大勢いた。この城の中にも裏切り者が多数いるだろう。  もしかしたら、前王を討ったのもその兵の仕業かもしれない。  誰が敵で、味方なのか分からない。  油断はできない。今のように急に襲ってくるかもしれないのだ。  細い階段を下りて、扉から出ると広い廊下に出た。壁に背を付けて慎重に辺りを伺いながら進んで行く。 「この先が王の間です」  シャルールが戴冠式をしたあの広い広間だ。  グルードが、「私が先に見てきます」と言って走って行った。  街の方からは絶え間ない騒音が響いていて、戦いが続いていることが伺えるが、城の中は閑散としている。 「兵はどこにいるのでしょうか?」  フェルメに尋ねると、「城内は手薄になっているのでしょう」と返した。 「じゃあ、ハル様が中に入ったらすぐに王座は奪われるんじゃ……」 「城内にはまだ入っていない。もしも、中にいれば裏切った兵たちが城内にいるはずです。まだ見張り台にいたということは、到着を待っていたということです」  すでに制圧していたら、裏切った兵士たちが城内でその勝利を喜んでいるはずだ。  街が喧騒に包まれていて、ハルの姿は確認できなかった。シャルールはエクスプリジオンに戻ると言っていたけど、その姿も見ることはできなかった。  シャルールが早く気が付いて、ハル一行を街に入らないように足止めすることができたら、国は無事だろう。 「フェルメ様。王の間は固く閉ざされたままで、誰も入っていないようです」  走って戻ってきたグレードに言われて、「そうか。それならば待つしかあるまい」とフェルメは呟いた。 「どちらが先にたどり着くか」  王の間の前までたどり着いて、カギのかけられた大きな扉を見上げた。

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