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彷徨う者
「今はまだハルが破れたことを知らないからです。勝利の宣言を告示し、早急にこの戦いを終わらせます」
イグニスの顔色も悪い。
みんな重症のけが人ばかりだ。シャルールは瀕死の状態でここまで運び込まれた。
「俺はアウルムから合流した。時期にアウルムから兵士たちが帰ってくる」
来た道を城へと向かって引き返す。
「城の中でフェルメ様とグリード、龍神の杜人の仲間が待っています」
早足に進みながら告げると、「城壁の上に龍神が見えました。仲間がいたんですか?」とイグニスに聞かれて、「そうみたいです。水の宮殿に助けに来てくれました」と答えた。
「水の宮殿に助けに?」
「水の宮殿はハル様の仲間らしい寄せ集めの兵士に占拠されていて、僕たちは地下牢に閉じ込められてしまって……そこで、ハル様の陰謀を知って、急いでエクスプリジオンに戻ってきました」
残すはスオーロのみと誰もが思っていた。スオーロの兵に占拠されたと聞いていた水の宮殿も、スオーロの鎖国により兵は引き、無事に総領達と再会できるはずだった。まさか逆賊に占拠されているとは、思いもよらないことだったのだ。
ヴェレンを先頭に裏通路を早足で進み、僕達の後ろには数人の兵士がついてきていた。
「シャル、もうすぐです。しっかりしてください」
イグニスがハァハァと息を上げているシャルールに声をかけた。
赤い髪は艶を失い、唇は紫に変わりその顔には乾いた血のりが付いていた。
「フェルメ様っ」
内側から板を外した。敵兵に見つからないように、フェルメが板を閉じていたのだ。
「シャルール様っ、イグニス様」
フェルメが手を貸して場内の廊下へと引き上げた。
「フェルメ様、急ぎ、シャルール様にお力を」
イグニスがフェルメにすがる。
「分かっています」
ヴェレンの背中から廊下の床へとシャルールを降ろして横たえた。
胸から肩にかけて巻かれた包帯は吸い込んだ血で赤く染まり、すでに変色していた。
「感染症で熱もある」
ヴァレンは言いながら、シャルールに巻かれた包帯を解いていく。
イグニスは、「すぐに新しい包帯と鎧を用意します」と言って走って行ってしまった。
「ディディエ。お前の力を貸してやれ」
騒ぎを聞きつけたアレサはそう言って僕の横に跪き、「手を」と言ってフェルメがシャルールに翳している手に手を重ねた。
「力が……」
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