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彷徨う者

 フェルメの手に重ねた手は熱く、以前に弾かれた時と同じように弾かれそうだったが、アレサがそれを押さえつけた。 「水は森に力を与えることができるんだ。土にもだ。火とは対極にあるが、力の暴走を抑えるためにも必要な存在なんだ」  アレサは「剣を出せ」と言った。  僕は空いている手で腰に下げていた短剣を取り出す。それを受け取るとフェルメの手に握らせた。 「この石はアウルムで土の杜人により造られたものだ。ブルー家に代々に引き継がれ、力を増幅させるものだ」  フェルメがシャルールの傷に手を当てて、その力で回復力を高める。 「応急処置はしてあるが、何せこの重傷で感染症まで発症している。意識も混濁している状態だ……出血は少ないが……」  ヴァレンが脈をとり、心音を確かめる。 「シャルールはなんでこんな姿に?」  僕たちと別れる前、シャルールはまだ話もできる状態だったはずだ。杜人の力も少しは回復していたはずだ。 「ハルを捉えた後、賊兵に襲われたんだ。俺たちと合流する前で、白金の杜人が動物を使って襲わせた。剣や弓は役に立たなくて、シャルールが炎で焼き払ったんだ」  それで、力を使い果たしたのだろう。厄介な獣を掃えば残りは武力で何とかなる。それに、シャルールは賭けたのだ。 「馬で揺られたせいで傷が開いてもいる」  解かれた包帯の下の傷からは血が溢れて、縫合されてはいるが、数か所肉が千切れているところもあった。  目を閉じてしまいそうになるが、アレサにぐっと力を込められてその傷をみつめた。  ヴァレンは腰に下げていた医療道具を広げると消毒液を手に吹きかけて、傷にも吹きかけた。 「ぐぅぁああっ」  傷に沁みて暴れるシャルールをアレサの仲間たちが抑え込んだ。はぁはぁと切れ切れに息を注ぎながらうめき声を漏らして、シャルールが暴れる。  顔色を失って白くなった顔には脂汗が滲んで、赤い髪が頬に張り付いている。 「しっかり抑えていろ」  ヴェレンは開いてしまった傷を縫い直す。  麻酔もない状態で一度縫った傷を再び縫直す。赤い血溜まりができるのを拭き取り、その傷を抑えているとイグニスが戻ってきた。  傷をガーゼで抑えて真新しい包帯を受け取ったヴァレンが手早くそれを巻いた。イグニスが一緒に持ってきた毛布で体を包んだ。

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