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彷徨う者

「杜人の力が戻れば少しは回復するんだが……」  杜人は皆、回復力が強い。あれだけ暴走して力を使い果たし、瀕死の重傷を負ってしまったシャルールは今にもその炎が燃え尽きそうになっている。 「シャルール……生きて」  つぶやいて空いている手でシャルールの頬に触れた。火の杜人のシャルールは体温が高いのに、今は僕の手よりも冷たい。 「シャルール……僕は、もう決めたよ」  シャルールの側で生きていくことを。僕は、あの噴水になるんだ。生きていることこそが僕の使命。  龍神の杜人の使命。  『この戦いが終わったら俺のものになれ』とシャルールは跪いて僕に乞うた。 「僕は、シャルールのものになるよ。僕を、僕を一人にしないで」  この戦いが終われば、僕は奴隷ではなくなる。唯一の龍神の杜人として生きていかなければならない。  シャルールが孤独なように、僕も孤独だ。  戦いに明け暮れて、人を殺し、感情を持てなくなったと、誰も好きにならないとシャルールは言ったけど、こんなにも人を愛している。  シャルールの耳元に唇を寄せた。 「僕も、愛しているよ」  シャルールの意識は混濁して、僕の声は聞こえていないかもしれない。  だけど、どうしても告づにはいられない。 「シャルール……シャルール……」  頬に触れたままシャルールに呼びかける。周りにはイグニスにヴァレン、フェルメ、アレサ、兵士達もがいるが気にする余裕なんて無かった。  何度も呼びかけながら、頬を擦る。 「シャルールが何者でも、もう逃げたりしない。奴隷とか国王とか……そんなものいらない。シャルール、シャルールがいればそれでいいんだ」  ポタポタと堪えていた熱いものが頬を伝って落ちる。伝えたい想いは溢れるほどあるのに、言葉にならないもどかしさに、嗚咽を漏らすしか無くて、何度も名前を呼ぶ。 「化膿止めと鎮痛剤」  ヴァレンが小さな紙の包みを出して、蓋を開けた水筒を僕に渡した。粉薬のそれをシャルールの口を開かせて、振り入れると、「水を飲ませてやれ」と水筒を指した。  慌てて水筒を口に持っていくが、流れるばかりで口に入らない。 「口移しが早い」  水筒の水を口に含むと、ヴァレンがシャルールの口を開けたまま抑えたので、その口に水を移した。シャルールが嚥下するまで口を付けたまま抑えていた。

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