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彷徨う者

「効き目は早い。ここはディディエとフェルメ様に任せて、終戦の宣言の準備に取り掛かろう。イグニス。お前も少し休め」  イグニスも深手を負っていたはずだ。 「先にシャルール様を」  イグニスはシャルールの横に座った。 「私は大したことはありません。ですが、お言葉に甘えて少し休ませて頂きます」  ヴァレンが座ったイグニスの髪をひと撫でして、さっと立ち上がると兵士を連れて王の間へと駆けて行った。 「この者が龍神の末裔の仲間なのですか?」 「私の名は、ニハル・アレサ・ブルー。龍神の末裔の一人です」  アレサは自ら名乗った。 「ブルーメンブラッドの王家の名ですね。私はシャルール様の側近で森の杜人のイグニスです。せっかくのお越しを歓迎できず申し訳ありません。この戦いが終わった暁には盛大にもてなさせて頂きます」  深々と頭を下げる。 「そんなことは結構だ。我々は龍神の杜人を支えるためにここに来たのだ。ブルーの名の命の元に」  アレサは少し照れくさそうにしていたが、「龍神の末裔が幾人もいたのなら、なぜ名乗り出てはくれなかったのか」フェルメが怒ったように告げる。  総領の中でも若輩者のフェルメはグレードを連れて、龍神の杜人を探す旅をしていた。 「龍神の杜人は、世界にただ一人しか現れないのです。もし、名乗り出て殺されるようなことがあれば、我々は滅びてしまう。龍神の杜人は一族の中の誰かが龍神によって選ばれてその力を宿されるのです」 「遺伝ではないのですか?」  他の杜人は遺伝だ。だが、同じ兄弟でもその力が遺伝されるとは限らない。 「先代は俺の祖父だった。その前がブルーメンブラッドの皇太子で、その前が先代王。歳は関係なく、血筋の誰かに宿される。水の腐敗が進み、湧き出る量が少なくなったのは、爺が病気で死にかけていたせいだ」  そのお爺さんが亡くなって、その力が僕に宿ったということだ。 「こいつが死ねば、血筋の誰かにその力は宿されるんだ」 「血筋はたくさんいるんですか?」  フェルメが尋ねると、「ああ。爺さんは子だくさんだからな」と答えた。 「あの大雨の前の日、爺は死んだ。そして、お前の願いに引き寄せられて龍神が宿った。若くて元気のいい者が杜人になれば、水は安泰だ」  アレサは笑った。 「それに、遺伝じゃないから子孫を残す必要もない」

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