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彷徨う者

 頬を撫でている僕に言った。 「え、あ、そういう……」  これだけの人前で、愛していると言ってしまったんだ。共に生きたいとも。頬に沿えていた手を引いた。  今更隠せるはずもなくて、「まさか恋仲だとは知りませんでした」とイグニスが言った。 「え、気づいてなかったんですか?」  フェルメに指摘されて、「シャルール様が大層気に入っていたのは分かっていましたよ」と答えた。 「『僕も』と言ったのは、シャルール様にすでに求愛されたのでしょう?」  フェルメの指摘に顔が赤くなるのを感じた。 「まさか、もう」  イグニスが慌てるが、「な、な、なにもないですっ」と大声で否定した。  抱きしめられて、口づけを交わしたことはある。  それ以上は無い。 「……膝まずいて、愛を乞うた」  掠れた声が小さく呟いた。 「しゃ、シャルールッ」  その声にびっくりして目を見開いた。シャルールが手をあげて僕の頭を自分の方へと力なく引き寄せる。僕はされるがままシャルールの口元に耳を寄せた。 「……い、し……ている」  囁きに涙が溢れる。  口元に耳を寄せたままその手のぬくもりを感じた。  少しずつ力が回復してきているのだ。 「膝まずいてとは……シャル、なんてことを。それは……」  イグニスは慌てて言葉を詰まらせるが、フェルメがそれを制して、「話はあとです」とシャルールが口を開くのも制した。  顔を上げて、手の甲で涙を拭きとった。シャルールは長く息を吐くと目を閉じた。まるで力を吸い込むように。  紫に変色していた唇が赤みを差し、顔色も徐々に回復してくる。 「あの医者に意識が戻ったことを伝えてくる」  アレサが立ち上がって王の間へ向かって行った。フェルメは両手をシャルールに向けてかざしている。大きな傷のところは念入りに。 「シャルール」  ヴァレンが王の間から戻ってきた。  シャルールに意識があることを確認すると、「もう少し回復させてくれ。街の向こうにエクスプリジオンの兵が見えた。もうすぐだ」

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