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彷徨う者

 ここで戦っているスオーロの兵はわずかだ。スオーロとアウルムで戦っていた兵が戻れば即座に戦いは終わるだろう。 「兵が戻ればすぐにでも街は押さえられる。兵が城に戻るまでにさっさと生き返れ」  ヴァレンはそういうと、「俺は城門を開けに行ってくる」と立ち上がる。 「ヴァレンっ、ここで待っていればいい」  イグニスが引き留める。 「大事ない。門を開けるだけだ」 「門など、兵に開けさせればいい」  いつになく必死にイグニスは引き留めて立ち上がった。 「門は内側からしか開かない」  城を囲む城壁。その正面には大きな門がある。 「私も共に参る」  イグニスが歩き出し、ヴァレンの横を通った。 「お前はここにいろ」  引き留めるヴァレンに、「意気地のない男よ。私にまた、一人で待てと言うのかっ」と叫んだ。感情をむき出しにした姿を見るのは初めてで、それはヴァレンも同じなのだろう、気圧されて言葉が出なかった。  眉間に皺を寄せて、唇を噛みしめたイグニスにヴァレンは、「シャルールの側近だろう」と窘めて、イグニスを突き放した。ヴァレンはイグニスの頭をひと撫ですると駆け足で正面の扉へ向かって行った。  イグニスは拳を握りしめたまま僕の横に座った。 「シャルール様、早く回復してください。兵が戻ればすぐに勝利宣言をして、早々に終戦です」  イグニスの言葉にシャルールは小さく頷いた。 「それが済んでから、お聞きしたいことが山のようにありますからね」  それは……。視線をさ迷わせると、「ディディエ、あなたにもです」と釘を刺された。 「まぁ、落ち着いてからにしましょう」  隠し通路から出たばかりの石の廊下に寝かされたままでは落ち着かない。どこから敵がやってくるかも分からない状況だ。周りの状況を確認しながらシャルールの回復を待つ。焦りはあるが、誰もが落ち着いていた。  イグニスは一緒に城に戻ってきた兵に城内の確認を急がせた。隠し通路からは何人もの兵士が上がってきて城内の安全を確保しに行き、ヴァレンの後を追って城門に向かっていった兵もいた。  「イグニス様っ、エクスプリジオンの兵が、街に戻ってきました」  見張りをしていた兵が駆け寄ってくる。  それはヴァレンが戦いを続けている町の中を通り抜けて門を開けた合図だ。

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