155 / 167

勝利の晩餐

「イグニス。それくらいにしてやれ」  夕食の後に久々に顔を合わせた、僕とシャルール、イグニス、ヴァレン。イグニスは相変わらず困惑した状態で、「どうしてそのようなことに」と問いかけるばかりだ。  勝利宣言をしたシャルールやイグニス、ヴァレンとは数日会うことが叶わなかった。城内に僕の部屋が与えられて、僕はフェルメと共に行動していて、傷ついた兵の回復や水の浄化に当たっていた。  シャルールは傷を治すために部屋に軟禁されていて、イグニスはシャルールを回復させながら職務に追われていた。 「別に反対しているわけではありませんが。いえ、世継ぎをと願うなら、反対せざるを得ませんが……しかし、シャルが望むなら……」  イグニスは自分の考えがまとまらない様子で、テーブルに置かれた紅茶を立ったまま口に運ぶ。 「俺は別に反対じゃない」 「あなたは何も考えていないからです」  ヴァレンが口を開くと相変わらず、辛辣に黙らせる。 「これは国の問題ですよ。一時の感情でどうにかなる問題では無くて……」 「イグニス。俺はそんなに薄情な人間か?」  シャルールは苦笑いで、「座れ」と自分の向かいのソファーへイグニスを座らせた。その横にはヴァレンが座っていて、僕はシャルールの横に座っている。 「幼き頃より、共に育ってまいりました。シャルール様に最も近きところでお仕えしておりました。シャルール様がどれ程に素晴らしい人格をお持ちかは私が一番心得ております」  イグニスはシャルールと向き合ってそう言いながら、「しかしながらですね」と続けようとして、「イグニス。これはもう本人たちに任せる問題だ」とヴァレンが制した。 「お前がいくら反対しても、気持ちは変わらないのだろう?」 「そうだな。俺は唯一だと思って、跪いて求婚したのだから」  シャルールに側で見つめられて、恥ずかしさに耳まで赤くなりながら俯いた。  いくら同性婚が認められているエクスプリジオンでも、王族では今までに例がない。杜人の能力は遺伝が主で、エクスプリジオンの王は代々火の杜人だ。それも、最高の力を持っているのだ。  赤くなった頬をシャルールの指先が触れる。 「ディディエはブルーメンブラッドの由緒正しき王家の血筋だということも分かっているし、龍神の杜人は遺伝ではないということも分かっている。なんの問題もないだろう?」  シャルールは得意げにイグニスに言った。

ともだちにシェアしよう!