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勝利の晩餐
びっくりして何度も二人の顔を交互に見つめた。
「……夫婦なんですか?」
イグニスはきまり悪そうに両手で顔を覆って、「賭けに負けて仕方なく……」と小さく呟いた。
「まだ根に持っているのか」
ヴァレンはため息をつくと立ち上がって、「シャル、落ち着いたらこいつ迎えに来るから、どうにかしておいてくれよ。俺は村に帰る」とソファーから離れた。
「自分で何とかしてくれ。俺はすでに手いっぱいだからな」
シャルールが言うと、イグニスが立ち上がって、「シャルール様の手を煩わせなくとも、私が解決いたします」と言って、「ついてきなさい」とヴァレンを連れて出て行ってしまった。
「イグニスが相手じゃヴァレンも苦労するだろう」
いつも飄々としているヴァレンとしっかり者のイグニス。いつも言い合いをしているように見えたが、夫婦だとは全く知らなくて驚いていてしまった。
シャルールは「イグニスは自分のことや色恋には疎い男だ」と付け足した。
すぐ隣に座るシャルールはすでに湯あみも済ませていて、寝巻にしている生成りのシャツとパンツ姿だ。薄いそれはたっぷりのドレープが寄っていて、同じ物を着ている僕も着心地の良さに愛用しているほどだ。
赤い髪はまだほんのりと湿っている。
ここはシャルールの私室で、赤を基調に金で装飾された家具で統一されている。シャルールは座っているカウチソファーに両足を伸ばしてその美しい身体を横たえている。
「髪を切ったのだな」
龍神の杜人となった時に腰まで伸びた白銀の髪は馴れない長さに四苦八苦して、侍女に結ってもらうのも落ち着かず、これまでと同じ長さに切ってもらった。
「馴れなくて」
シャルールの手が伸びてきて、少し長めの前髪をかき上げた。
「前髪はもう少し短くてもいいんじゃないか?」
「いえ、これで大丈夫です」
「大丈夫じゃない。もう少し姿勢もよくして、シャキッとしろ。もう、奴隷じゃないんだ」
シャルールは僕の背中を軽く叩いた。
「わ、分かった……」
分かりはするけど、どうにもこれまでの生活が身体から抜けないのだ。これまで蔑まれて注視されることも無かったのに龍神の杜人というだけで目立ってしまう。
目立たないようにしているつもりなのに、シャルールやイグニス、フェルメなどが話しかけるし、気にかけてくれるから余計に目立ってしまう。
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