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勝利の晩餐
城にはたくさんの要人や兵が生活している。僕も新国の要人として城内に部屋を持たされているが、できれば城から出て、街の一角にでも移り住みたいぐらいだ。
だけど、国王であるシャルールがそれを許してはくれなかった。
今はまだイグニスやヴァレンなどの側にいる人にしか僕に求婚したことを伝えていない。だけど、結婚して夫婦になるとなれば、シャルールは国王だ。公にしなければならない。
シャルールは僕の髪を撫でて、引き寄せる。そういう意図を持って僕の髪を撫でて引き寄せようとしていることは分かっている。
それが僕を落ち着かなくさせている。
ヴァレンがさっき僕を幼いと言った。それは僕も認めているし、初めてシャルールに会った時も幼く間違われた。
背が低く、身体も小さいことは自覚している。それをどうすることもできないのは分かっているが、こんな僕でいいのだろうかと心配になる。
引き寄せるシャルールを拒むわけではない。
僕だって、シャルールと側にいると、愛してると軽い気持ちで言ったわけじゃない。
委ねればいいと、シャルールが決して酷いことをしようとしているわけじゃないことも分かっている。
分かってはいるけど、決心はつかない。
「シャ、シャルール様……あの」
頭を撫でるシャルールの手をそっと引きはがして、ソファーに座りなおした。
「何だ?」
シャルールは首をかしげて僕を見つめる。
それはさっきまでイグニスやヴァレンといた時とは違って、優しい表情をしている。
それが、僕をさらに落ち着かなくさせる。
「あの……シャルール様が、僕を想ってくれる気持ちは嬉しいのだけど……そ、僕は」
経験もない、誰かの恋人になったこともないし、恋をしたこともない。
口づけもシャルールが初めてで、求めらることも初めてだ。戸惑うことばかりで、気持ちが追いついていない。
「ディディエ、俺は決して軽い気持ちや冗談でお前に求婚したわけじゃない。お前だから、俺の側に置きたいと思ったんだ」
「シャルール様の気持ちを、疑っているわけではありません」
シャルールの僕を見つめるまなざしを疑ってなどいない。
「お前は俺に笑いかけてくれる。俺に笑えと言った。それがどんなに俺を助けてくれたか……。責務と戦で潰されそうになっていた俺に『笑え』と言った。お前が俺を信じてくれれば俺は強くなれる。俺の強さはお前のおかげだ」
シャルールはソファーから身を起こすと座っている僕の足元に膝を着いた。
「シャルール駄目だよっ」
国王が膝を着くことは許されない。
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