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trois

「……江、苦しい」 「いいの、黙って」  他に頼る相手もなくて、申し訳ないと思いながらも烈己は江とその恋人、(しゅう)の住む部屋へ逃げ込んでしまった。  そして、今ソファからじっとりした目でこちらを眺める秀の視線にいい加減耐え切れない烈己をよそに、江は烈己を抱き締めるのをやめない。 「……まさかとは思うけど、今、禁欲中期間?」と烈己が秀に恐る恐る尋ねると、秀は頷いてみせた。 「もう、マジ、ホントごめん、そしてめっちゃいい匂いすんのな、江って」  そばにいるαから皮膚に刺さるほどの激しい殺意を感じたが、烈己は目を瞑って今はあえて見ないようにした。 「烈己もそうとう捻くれてるけど、その人烈己より年上のくせに捻くれすぎでしょ。ていうか、拗らせすぎだよ。もっと大人になりやがれっ」 「そう……かもだけど、なんか、俺の考えって周りからしたらそう思うのがフツーなのかなぁと思ったりもした」 「いいじゃん、可愛いじゃん、ハタチが家族が欲しい、寂しいって言ってるののどこが悪いの? その人こそ不感症かなんかじゃないの、そのせいでちんこ勃つポイント忘れたんじゃないの?」 「おーい、そんな綺麗な顔でそんな汚い言葉言うなよ〜、秀が悲しむってぇ〜」 「気にするな、普段はもっと汚い」 「しゃ、喋った!」と烈己は思わず慄く。 「俺もお前がそんなに落ち込む必要はないと思う。家族が欲しいと思う気持ちに悪いことなんてひとつもないし、それを重いと思うならソイツはお前の相手じゃないってだけだ。本当にお前を好きならそんなこと重荷にならないし、むしろなりたいと願う筈だ」 「……秀、それ俺にじゃなくて江に言ってない?」 「──────いや、そんなことはない」 「その()なんだよ! めっちゃ図星か!」 「江とは家族以前の問題だから今のはお前のことだ、心配するな」 「……なんか、ごめんね……、ハッキリ言葉にして言わせて……」 「大丈夫、秀は俺に鍛えられてるから。Mの中の最上級のMって感じに」 「お前可哀想に思わないのかよ、お前の彼氏だぞ。俺は本当に毎回同情してる」 「えーっ、ひどいっ、俺はいつも烈己の味方なのにぃ! 烈己は秀の肩持つのぉ?!」 「話がややこしくなるからもうやめてっ」  恋人奪還をいい加減諦めた秀が、突然の来客である烈己の分も夕食を手際よく支度し、烈己は素直にご相伴にあずかる。 「俺、秀の作るごはんすごい好き。大皿料理で白いご飯にすごく合うの。皆で輪になって食べるこの感じすごく好き」 「お前は素直で食べっぷりもいいから作り甲斐がある」  秀は珍しく烈己に柔らかな表情をしてみせた。 「悪かったな素直じゃなくてぇ〜」 「江は胃が小さいから仕方ないよ、俺が江だったら今頃とんだ豚になってるね」 「えー、いくら烈己でも秀はあげないよぉ」 「ふふ、かわいいの、江が嫉妬した」 「烈己ってばかわいくなーい! おい、ニヤニヤしてんな秀!」  江がテーブル下の向かいにある秀の脛を蹴っている姿に烈己は肩をすくめて笑う。  幸せの形を目の前にして、烈己はそれが羨ましくて愛しくてたまらない。 「江の赤ちゃん見たいな……絶対かわいいよ」  突然の烈己の言葉に江は目を丸くして珍しく固まった。それは向かい合う秀も同じだった。 「烈己……なに、突然」 「ううん、二人は幸せな番になるんだろなあって、改めて思ったんだ。まあ、今も十分そうなんだけど、家族が増えたら最強だろうなって」  二人の幸せに酔うみたいに烈己はうっとり微笑み、小皿に取った煮物のじゃがいもを箸で二つに分けた。 「烈己、追加の肉焼くか?」 「秀っ、烈己の胃袋を懐柔しようとするのやめて!」  美味しい温かなご飯と、二人の幸せで腹を満たした烈己は明るい顔で二人に別れ告げると、玄関のドアを閉めた。  閉まったドアを二人はしばらく黙って眺めていたが、秀が不安そうに本当にアイツは大丈夫なのかと江に声をかける。 「全然大丈夫じゃないよ、烈己になんかあったら俺がそのαを刺してやる」  冴えるように美しい顔が真剣に心の殺意を漏らした。 "つまりアンタは自分の寂しさを埋めるために誰かを利用するってことですか──"  烈己の頭の中を大澄の声が何度も巡ってはズキズキとこめかみを痛めた。  空になったグラスをコースターに置いて冷たいテーブルへ烈己は右頬をつけると、火照った頬が少しだけ楽になった。 「冷たくて気持ちぃ……」  腹の当たりがじんわりと熱を持ち始めていて、毎月やってくる憂鬱なだけの発情期が近いことを烈己は悟った。そこへ手を添えながら瞼を閉じて、このまま誰かに身を委ねてしまえば楽になれるのかもしれないと、破滅的な思考が烈己のすべてを蝕み始める。 ──運命なんて、俺にはないのかもしれない……。母が最期までひとりだったのも、母には運命の番が現れなかったからだろう。その息子である自分は? 見合いで出会ったあのαは遺伝子だけで合うだけの、細胞だけの番相手。思想も思考も自分とは全く合わない、心は重なり合うのを拒絶した。 「江たちみたいに……あんな風に強く惹き合って……愛しあえたら幸せだろうな……」  周りは知らないのだ。  江の美しさは秀からの深い愛があってこそなるものだということを──。  そして、江が深くその秀を愛することでそれはさらに磨きをかけた。 ──羨ましい。俺はずっとあんな二人になりたかった。一番それをそばで眺めていたせいで、俺は余計欲張りになってしまったのかもしれない。  自分にもあんな風に愛して、愛される番がいるのだとあるかどうかもわからないものに、相手に、縋った。 「バカみたいだ……バカだなぁ、俺……」  目頭を熱いものが流れていって烈己は袖でそれを隠した。そんな細い肩を優しく触れられ、烈己はうっすらと瞼を開いた。  白い歯だけが異様に目について、相手の男が笑っていることはだけはわかった。  うまく回らない頭が相手の言葉をいまいち理解できずに烈己はぼんやりと相手の顔だけを眺めていた。  手を引かれ、素直に椅子から降りて烈己は心もとない足をふらふらと進めた。  扉を開いて出た街の夜風が気持ちよくて、烈己の酔いをさらに心地よいものへさせた。  勝手に笑みすら浮かぶ、深い森へ(いざ)われるお姫様みたいな気分になった。  それは城から出してくれる王子様?  (つむ)を忍ばせた悪い魔女?  わからないけれどもうなんだって構わない。  考えるのももう飽きた、もう疲れた。楽にしてくれるならこれを運命にしたって構わない。 「──安っぽいですねぇ、アンタの運命ってのは」  聞き覚えのある声が気持ち良い眠りを突然遮った。  烈己は未だ焦点の合わない目で声のする方を振り返る。    不思議なことに不鮮明な世界の中でその男の姿だけはハッキリと烈己の中に映った。 「……大澄……」 「呼び捨てですか、相変わらず無礼がすぎるガキですね」   「なに、知り合いなの?」と残念そうに手を引いていた男が不満気な声を漏らす。 「知り合い……? う……ん? アンタよりかは知ってる」  相変わらずの口の利き方に大澄は思わず吹き出した。 「んだよ、ホイホイついてきたわりに他に男がいんのかよ」  煩わしい声が烈己の耳を掠め、乱暴に手を払われた。 「ホイホイ……」  男の怒りの意味がわからなくて烈己は小さな顔を傾けた。 「違いますよ、その人はねアンタに人生のすべてを捧げて預けて凭れて、骨になるまで添い遂げたいだけですよ」  明らかに揶揄いを含んだ声色で大澄は男へ笑って真実を告げる。 「うわっ重っ! 悪いけどそれは無理。俺は今夜遊べる丁度良いΩを探してただけ」 「……遊べる……丁度良い……」  そう繰り返した烈己が次に何をするのか大澄には見えていたのか、笑みが溢れる口元を思わず隠した。  次の瞬間、男は大きな音と共にアスファルトへと張り付いたカエルのようにひしゃげた。  男が漫画でよく見る雑魚のチンピラたちが吐き捨てるベタな台詞を残して、痛む腰を押さえながら夜の街へと消えていく情けない姿を何度も思い出しては、大澄は腹を抱えて笑い続けた。 「いつまで笑ってんの、アンタは!」  恥ずかしさと怒りで酔いが完全に覚めた烈己は眉を吊り上げ、大澄を睨んだ。  男が消えた後、二人は道路沿いの歩道から脇へ逸れ、大きな河川沿いに面したタイル張りの広いプロムナードへ移動すると、近くのベンチへ腰掛けた。 「いや、あはっ……ふふっ……アンタって誰かを殴るのが趣味かなんかなんですか、いい加減にしないとそのうち警察に連れていかれますよ」  笑いすぎて溢れる涙を大澄は手の甲で雑に拭い、隠しきれない緩んだ口元のまま烈己を見た。 「これは俺の処世術! Ωは自衛しなきゃ生きていけないんだからな」 「へぇ、まぁ世の中にはモノ好きなのもいますからねぇ」 「アンタ……本当に……」  地響きが聞こえんばかりの烈己の強い怒りを男は肩をすくめて軽くかわした。 「アンタこそ、憎まれ口を叩かないと心臓が止まる病気がなんか?」 「おや、アンタにしてはとんちが効いてますね」 「顔面陥没させんぞ」 「出た、また暴力。そんな瞬間湯沸かしみたいな性格してたら運命の王子様も逃げ出しますよ」  その言葉で烈己の沸点は一気に下がった。その気配を大澄も察知したのか静かに視線だけを烈己へやる。 「……もう懲りた。いないんだよ、俺にはそんな相手」 「あんな壮大な夢物語を人に聞かせておいてもう降参ですか」 「そ、あれは夢物語! 俺の果てしない妄想、ありもしない幻の世界。目を覚まさせてくれたアンタにも少しは感謝しないとな」 「そんなこと言ってヤケ起こして、どっかの知らないαに噛まれても俺は責任取れませんからね」 「言わない……そんなのは俺の自己責任」  儚げに告げた烈己はひどく乾いた笑いを漏らし、地面へ視線を落とした。 「──兄貴がもし生きてたら、アンタの運命になれたのかもしれませんね」 「えっ?」  全く予想しなかった突然の言葉に烈己は顔をあげて大澄を見るが、その顔は暗く静かに流れる川へと真っ直ぐ向いていた。 「同じ遺伝子でアンタと俺が選ばれたなら、それは兄貴でも同じだったはずだ」 「……それは、そう……かも、だけど……」  どう反応していいのか困りながらも烈己はポソポソと言葉を繋ぐ。 「あの人は俺と違ってロマンチストでしたし、家族を持つとかそういう暖かいものに憧れる一面もありましたしね」 「暖かいもの……って、アンタ俺には重いって……」 「重いですよ、アンタのは。間すっ飛ばして家族とか孫とか、とりあえず相手の貯金額の確認から始めるようなアレでしょうが」  殺伐とした現実を突きつけられ、烈己はぶすっと頬を膨らませると、こちらへ視線を戻して来た大澄からあっさりと逃げた。 「お金なんて……そりゃあ、あったほうが良いけど、なくたって……それはそれで生きていけるだろ、家族になるのに大きな車や家がいるわけじゃないし……」 「子供を何不自由なくたくさん育てるってのは金がいるもんですよ、アンタが欲しいのは番相手じゃなくて家族なんでしょう?」 「番になる夫だって大切な家族のひとりですけど?」 「最初からその調子じゃ結婚早々セックスレスまっしぐらでしょうよ」 「セッ……」  具体的すぎる単語の出現で烈己は言葉に詰まると、衝撃のあまり大きく見開いた瞳で大澄の方を見た。 「結婚した途端妻が母親ヅラしはじめるんですよ、地獄ですよ、地獄。もう番なんかじゃないです、もう無理。男は母親とセックスしたいとは思いませんよ」  やたらとよく舌が回る大澄とは裏腹に、烈己はすっかり黙りこくってしまった。  威勢の消えた烈己を訝しむように大澄はその俯きかけている顔をじっと覗き、すぐに目を大きく開いた。 「アンタ……まさか、処……」 「わあああっ!!! 黙れぇーーーーっ!!!!」  急な叫びと共に力一杯鼻と口を抑えつけられ、大澄は慌てて烈己の両手をそれぞれ掴み上げた。 「プハッ、両方抑えたら死ぬっ! アホか!」  グニャグニャに力の抜けた烈己の手に驚いて、大澄は目の前の弱々しいΩに度肝を抜かれた。  烈己は怒りとはまた別の赤色で全身を染め、恥ずかしさですっかり瞳が潤んでいた。 「……アンタの情緒は一体どうなってんですか」 「うるさいっ、は、離せよっ」  初め会ったとき、馬鹿みたいなクソ力で人を殴りつけた手は今やその勢いを完全に失っていた。  怒りと悔しさだけで振り上げていた小さな手は、弱さを知られるのを恐れたΩの精一杯なる反抗の証。 「アンタの虎の威は本当に脆いな」 「悪かったな! 狐で結構、狐かわいいじゃん、俺好きだよ狐」  再びよく回り出した烈己の舌に、大澄は肩をすくませて笑う。 「なるほど、アンタは狐か……腑に落ちた」  そうひとりで笑う大澄の言っている意味が全くわからず、烈己は眉根を寄せて大澄の顔を不思議そうに下から伺う。  強い力で引き寄せられ、一瞬烈己は怯えて体を固くした。 「大丈夫……獲って食ったりしませんよ」  柔らかな声が鼓膜に届くと同時に、烈己は自分の体を覆い尽くす男の体に目を見開いた。 「……な、に?」    知らない匂いが全身を包む、知らない鼓動が耳をつく、知らない甘い吐息が鼓膜を掠める。  烈己は少しして自分が大澄の胸の中にいることを理解して身じろいた。  自分を包んでいその両腕は、烈己が本気で抵抗すれば簡単にふり解けるほどの軽い力だった。なのに、烈己は少し体を揺らしただけで本気で逃げようとはしなかった。  烈己はおもむろに自由になった両の手を大澄の大きな背中へゆっくり回してみせた。  胸へ頬を寄せると、暖かくてひどく甘い気分になった。少しだけ大澄が動揺したのか体がビクリと揺れる。 「なんだか、アンタ赤ちゃんみたいな匂いがしますね」  相変わらずの嫌味を大澄は口にしてみせたが、烈己はなんだかそれがただの悪口に思えなくて、腕の中からそっと大澄の顔を見上げた。  目が合った大澄はなぜかひどく動揺していて、すぐに視線を逸らしてしまった。なんだかその慌てた仕草がやけにおかしくて、烈己は小さく笑うと再び瞼を閉じて、広い胸に体を預けた。   「赤ちゃんかわいいじゃん、俺は好きだよ」  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎  烈己はようやく安心できる我が家へと辿り着き、玄関の明かりだけで寝室にヨロヨロと進むと、糸の切れた操り人形のようにベッドにうつ伏せになって倒れ込んだ。 「はぁ〜、なんかすげぇ疲れた……」  自分の吐く息が酒臭くて眉間に皺を寄せながら、重だるい体を腕の反動を使って仰向けにさせる。  薄暗い天井を眺めながら、未だ熱を帯びている指先たちを胸の前で組み合わせた。  手を置いた胸の奥が慌ただしく鳴っていて、体を包む自分とは違う香りに頬が火照るのを感じた。 「……なんだよ、人のこと重いとか、フラれてよかったとかほざいてたくせに……」  初めて出会った大澄は明らかに烈己には興味はなく、それは二度目の出会いでも同じだった。なのに、三度目の今日、なぜか彼は烈己を自ら抱き寄せた。  胸の前でじっとしている烈己を一切傷つけることなく、駅の改札で別れるその瞬間まで、見たこともない穏やかな表情をしていた。  思い出すだけでも体がむず痒くて、勝手に全身の体温が上がるのがわかった。  こんなの中学生の初恋みたいだ。幼くて、甘酸っぱくて、世間の大人が見たら全身に蕁麻疹が出そうなくらいの胸焼け案件。  ため息がでかけた瞬間、ポケットの中で携帯が震えて烈己はヒッと逆に息を呑んでしまい、ひとり大いにむせ返った。  涙目になりながら画面に目をやると、江からの安否確認メールが届いていた。 ──ちゃんと家に帰れた? 大丈夫?  ある意味鋭い江の心配にどきりとしながら、未遂で終わった今日のあまりにも不注意な自分を戒める。 「帰ってるよ、今日は本当にありがとう。秀にもよろしく伝えて、ご飯ごちそうさまでした」と最後に笑顔のスタンプをつけて烈己はメールを返した。  すぐに既読のついた江から「了解」のスタンプが届いて、烈己は画面に向かって微笑んだ。  メール画面が着信に変わって烈己は「わっ」と思わず声を出してしまった。  画面には大澄の名があって、烈己はぎゅっと唇を一度噛んでから、そっと応答をフリックした。 「もしもし……?」  少しうわずった声が出てしまい、烈己の顔の温度は急上昇する。 「────────」 「もしもし? おいっ、イタ電かっ」 「ぷ、くくく……」  無言電話は堪えきれずに聞き慣れた笑い声を漏らした。鼓膜がくすぐったくて烈己は簡単な自分に腹が立った。 「おい、いつまで笑ってんの」 「──今、家?」 「そうだよ」 「無事に帰れたなら良いよ。じゃあ、おやすみ」 「はっ? それだけ?」  烈己は思わず起き上がり、ベッドの上にきっちり正座した。 「ダメなの?」 「ダメっていうか……そんなのメールでよくない?」 「よくないよ、耳元で声を聞くのが目的なのに」 「はぁあ?! アンタのデレってマジわかりにくいんだけど!」  しゅんしゅんと高温の湯気を空いてる方の耳から噴き出させながら、烈己は精一杯虎の威を借りる。 「わかりやすいより時間が掛かって楽しいでしょ」 「拗らせてるなぁ、アンタ」 「そうだよ、困ったαに出会ったね」 「てか、敬語キャラはもう終わりなの?」 「そういうプレイがお好みならいつてもしてあげるよ」 「プレイとかいうな、エロおやじ」 「おやじってね、俺はまだ二十五だよ」 「アラサーじゃん」 「かわいくないなぁ、泣かすよ?」 「だったら俺は殴り返す」 「おー、マジでやりそうでこわい」  ひゃははっと、烈己は弾けるように笑った。    深い時間に始まったふたりの初めての電話は、烈己が寝息を立てるまで続き、朝日で目を覚ました烈己はいびきをかいていなかったかと乙女のような心配をしてしまい、そんな自分が恥ずかしくておかしな奇声を発しながら狭い部屋をぐるぐる歩いて回った。

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