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第4話 見せられない真っ黒なもの

 女の子と高級店で買い物デート…、か。  ちらりと投げられた阿久津の視線に、オレは聞こえていないという素振りで、逆隣の輪に混じる。  話しかけたそうな阿久津の空気に、オレは気づかないフリをする。  どこに居たんだ?  だれと居たんだ?  なにしてたんだ?  そんな問い掛けばかりが頭を巡る。  こんな質問は、束縛以外の何物でもない。  縛られるのが嫌いな阿久津には、決して投げかけてはいけない言葉たちだ。  オレは酒を呷り、口に出来ない言葉たちを頭から追い出しに掛かっていた。  唇からグラスを離したオレの腕が、つんつんと突っつかれた。 「誓将先輩。明後日、空いてます?」 「明後日?」  グラスを片手に、首を傾げるオレ。  阿久津の指先が、オレの背後を指し示す。  振り返ったオレの瞳には、夏祭りのポスターが映る。 「行きません? 祭り……」  もそもそと小さな声で誘ってきた阿久津は、オレの耳許に唇を寄せ、言葉を足す。 「デート……、しましょ?」  “周りが綺麗になったらデートしよう”と約束はしたけれど。  独りで慰め、虚しくなるのが嫌だから、セフレがいたと考えれば、阿久津の思うセックスは自慰の延長であり、それほどの重きはなくて。  “セフレは切れ”と言ったけれど、性欲を解消するだけの…会ってヤるだけの相手なら、阿久津の中で、“セックスフレンド”にすら当たらないと考えているのかもしれない。  周りが綺麗になるまで待っていたら、おじいちゃんになっちまいそうだしな……。 「いいよ。行くか」  口角を上げ、笑顔を作る。  綺麗に作れている自信はなかった。  でも、ほっとした顔をした阿久津に、上手く誤魔化せたのだろうと安堵する。  オレの腹底にある真っ黒なものは、阿久津の眼には見えていない。

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