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第5話 一向にかからないお誘い <Side 阿久津
やっと、誓将先輩をデートに誘えた。
自分の部屋のベッドに寝転がり、握った拳を天井へと突き上げ、ガッツポーズを取る。
小さくて、ちょこまかと動く誓将先輩。
性別など関係なく、小さくて可愛いコが好きな俺のタイプのど真ん中。
お互いに想い合っているコトが発覚した俺たちだが、すんなりと付き合うという話にはならなかった。
俺は、誓将先輩が風俗で働くコトが許せない。
誓将先輩は、俺のだらしない下半身が、気に食わない。
“お互いに周りがスッキリしたら、デートをしよう”と約束した。
誓将先輩は、男の娘専門の風俗を辞めるコト。
俺は、セフレをぶった切るコト。
デートへの誘いが、恋人になる第一歩だった。
俺の方は、風俗を辞めるための交渉材料であるデータを誓将先輩に渡した翌日には、全部綺麗に片付いていた。
元々、身体だけの後腐れのない関係のヤツばかりで、身辺を整理するのはさほど苦ではなかった。
誓将先輩から、男の娘専門風俗は辞めたと告げられてから、1週間ほどが経っていた。
あの映像を見たハルキの狼狽えっぷりが半端なかったと、誓将先輩は大笑いしていた。
その時、さらりと“女装は趣味だから、やめるつもりはない”と告げられていた。
“嫌か?” と首を傾げる誓将先輩に、やめてくれとは言えなかった。
別に、見た目なんて、どっちだっていい。
中身が誓将先輩なら、それでいい。
だって、どっちだって“可愛い”に変わりない。
流れで、デートに誘われるかと思ったが、その場はそのまま流れた。
数日待ってみたが、一向にデートの誘いがかからない。
研究室の奴らが集まった飲み会で、二次会の場所が決まらず、困っていた先輩に俺の行きつけのバーを紹介した。
ハルキとの交渉材料となる映像をくれたルカの働く店だ。
注文を取りまとめ、ルカに頼んだ。
酒の用意をしたルカが、トレンチを片手にバーカウンター出てくる。
「あれ、役に立った?」
出来上がった酒をトレンチに乗せながら問うてくるルカに、俺は笑む。
「ぉう。めっちゃ助かった」
俺の隣に並んだルカ。
そのふわふわの茶髪に、ぽふりと手を乗せ、わしわしと頭を撫でくった。
まるでコマンドを実行できた犬を褒めるかのように撫でくる俺に、ルカは、あはっと楽しげに笑った。
「ん? てことは、一泡吹かせられた?」
「相当、狼狽えてたらしいよ」
ししっと狡く笑う俺に、ルカも、にたりとした笑みを浮かべる。
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