6 / 24

第6話 なんたる不覚

「タツの好きな人って、あの端っこに座ってる人でしょ?」  トレンチに酒を乗せつつ、ボックス席を見もせずに、ルカは俺の好きな人を見破った。  好きな人が出来たから、セフレ関係を解消したいと告げた俺に、ルカはあっさりと承諾した。  見破られたコトに、俺は驚いたりはしなかった。  人間観察が、得意なルカだ。  俺の好みだって、熟知している。 「可愛いっしょ?」  思わず、にへらっと笑ってしまう俺。 「“好きな人”って言うくらいだから、まだ付き合えてねぇんだろ? フラれたら、また相手してあげるよ」  ニッと歯を見せ、笑うルカ。  俺は、苦虫を噛み潰す。  俺の不服顔を見たルカは、ははっと小さく笑い、言葉を繋いだ。 「冗談だよ。せいぜい、頑張んな」  ぽんぽんっと俺の尻を叩いたルカは、トレンチを手にボックス席へと向かう。  ルカの後を追うように戻った俺は、誓将先輩の隣を陣取った。  頑張るさ。  ルカに言われなくても、頑張るに決まってる。  デートに誘ってくれないと、悄気ている場合じゃない。  ん? 誘ってくれない…?  待てよ…。もしかして、俺からの誘いを待ってる、……のか?  誓将先輩は、風俗は辞めたと告げてきた。  でも、俺はセフレを片付けたとは伝えていない。  “セフレは全部切りました”なんて報告するのも、おかしな話だと思ったし、俺の方は簡単に片付くと伝えてある。  でも、俺の周りがどうなっているのかなんて、なにも言わなければ誓将先輩にわかるわけもない。  ……なんたる不覚っ!  ちらりと誓将先輩へと向けた視界の端に、夏祭りのポスターが映った。  絶好の機会、良い口実を見つけた。  誓将先輩を誘おうと口を開きかけた瞬間、奥野の腕が俺の肩を抱いた。 「お前でも、女の子のご機嫌取りとかすんのな?」  酔っ払っている奥野が、ニヤニヤと俺を揶揄い始めた。  鬱陶しいったら、ありゃしない。  機嫌取りもデートも誤解だと告げたところで、奥野は聞く耳を持たない。  ちらりと向けた視線の先、誓将先輩に、あからさまに瞳を逸らされた。  ショッピングデートだと誤解されたじゃねぇかっ。  でも、あれはデートじゃない。  俺がデートしたいのは、誓将先輩だ。  学食でのご飯、研究室のヤツらとの飲み会。  同じ空間で、飲んだり食べたりしてたって、それはデートには当たらない。  俺は、誓将先輩と2人で会いし、出掛けたい。  意を決し、誓将先輩の腕を突っついた。  デートの誘いに、誓将先輩は笑みを浮かべた。  その微笑みに、俺は安堵の息を吐く。  思った通り、誓将先輩は、俺からの誘いを待っていたのかもしれない。  もっと早く誘えば良かった。  それこそ、先輩からカタがついたと言われた時点で、俺が誘うべきだったんだ。

ともだちにシェアしよう!