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第6話 なんたる不覚
「タツの好きな人って、あの端っこに座ってる人でしょ?」
トレンチに酒を乗せつつ、ボックス席を見もせずに、ルカは俺の好きな人を見破った。
好きな人が出来たから、セフレ関係を解消したいと告げた俺に、ルカはあっさりと承諾した。
見破られたコトに、俺は驚いたりはしなかった。
人間観察が、得意なルカだ。
俺の好みだって、熟知している。
「可愛いっしょ?」
思わず、にへらっと笑ってしまう俺。
「“好きな人”って言うくらいだから、まだ付き合えてねぇんだろ? フラれたら、また相手してあげるよ」
ニッと歯を見せ、笑うルカ。
俺は、苦虫を噛み潰す。
俺の不服顔を見たルカは、ははっと小さく笑い、言葉を繋いだ。
「冗談だよ。せいぜい、頑張んな」
ぽんぽんっと俺の尻を叩いたルカは、トレンチを手にボックス席へと向かう。
ルカの後を追うように戻った俺は、誓将先輩の隣を陣取った。
頑張るさ。
ルカに言われなくても、頑張るに決まってる。
デートに誘ってくれないと、悄気ている場合じゃない。
ん? 誘ってくれない…?
待てよ…。もしかして、俺からの誘いを待ってる、……のか?
誓将先輩は、風俗は辞めたと告げてきた。
でも、俺はセフレを片付けたとは伝えていない。
“セフレは全部切りました”なんて報告するのも、おかしな話だと思ったし、俺の方は簡単に片付くと伝えてある。
でも、俺の周りがどうなっているのかなんて、なにも言わなければ誓将先輩にわかるわけもない。
……なんたる不覚っ!
ちらりと誓将先輩へと向けた視界の端に、夏祭りのポスターが映った。
絶好の機会、良い口実を見つけた。
誓将先輩を誘おうと口を開きかけた瞬間、奥野の腕が俺の肩を抱いた。
「お前でも、女の子のご機嫌取りとかすんのな?」
酔っ払っている奥野が、ニヤニヤと俺を揶揄い始めた。
鬱陶しいったら、ありゃしない。
機嫌取りもデートも誤解だと告げたところで、奥野は聞く耳を持たない。
ちらりと向けた視線の先、誓将先輩に、あからさまに瞳を逸らされた。
ショッピングデートだと誤解されたじゃねぇかっ。
でも、あれはデートじゃない。
俺がデートしたいのは、誓将先輩だ。
学食でのご飯、研究室のヤツらとの飲み会。
同じ空間で、飲んだり食べたりしてたって、それはデートには当たらない。
俺は、誓将先輩と2人で会いし、出掛けたい。
意を決し、誓将先輩の腕を突っついた。
デートの誘いに、誓将先輩は笑みを浮かべた。
その微笑みに、俺は安堵の息を吐く。
思った通り、誓将先輩は、俺からの誘いを待っていたのかもしれない。
もっと早く誘えば良かった。
それこそ、先輩からカタがついたと言われた時点で、俺が誘うべきだったんだ。
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