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第7話 デートの相手

 濃紺の布地に大輪の真っ白な向日葵が咲いている。 「ごめんな、遅くなって」  小走りに近づいてきた浴衣姿の彼女は、俺の目の前で止まり、すごく小さな声で謝ってきた。  その声音で、目の前の人物が誓将先輩だと気がついた。 「……チカちゃん」  誓将先輩が男の娘専門の風俗で働いていた時の源氏名が、俺の口から漏れていた。  俺は、“チカちゃん”とデートしたかった訳じゃないんだけどな……。  誓将先輩が、どうしてもっていうなら女装でも構わない。  だけど、出来るならば俺は、“誓将先輩”とデートしたかった。 「なんか、変か? …似合わねぇ?」  身体を捻り、浴衣姿を確認する誓将先輩に俺は、そんなコトはないと首を横に振るった。  にっこりと笑った誓将先輩が、俺の手を取る。 「これなら手を繋いでも、イチャついたって変な目で見られないだろ?」 「ぁ、…そうっすね」  人の目を気にするなら、素の誓将先輩では、手も繋げないしイチャつけない。  隣には座れても、その腰に手を回せない。  そもそも、誓将先輩は女装癖も同性を好きなコトも隠している。  女装姿なら、どんなにイチャつこうが、周りの目には、バカップル程度にしか映らない。  これは、誓将先輩なりの気遣いなのだろうと、もやもやする気持ちを無理矢理に飲み下す。  露店が連なる通りを、人の流れに乗り歩く。  たこ焼き、クレープ、チョコバナナ。  露店の代名詞たる食べ物の屋台が、建ち並ぶ。 「誓将先輩。なんか食べます?」  俺の瞳は、建ち並ぶ屋台を舐める。  ざわつく周りから誓将先輩の声は、聞こえない。  返事がない代わりに、繋いでいる手が、くんっと引かれた。  歩んでいた足を止め、誓将先輩へと視線を向ける。  俺と視線を交差させた誓将先輩が、数件先のクレープ屋を見やった。 「クレープ?」  こくこくと頷く誓将先輩に、店先へと足を進めた。 「何にします?」  露店の上に掲げられているメニューを目で追う俺。  返ってこない声に、俺は再び誓将先輩へと瞳を向ける。  視線の先で誓将先輩は、調理台の前に連なるメニューから“チョコバナナ”を指し示す。

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